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2022/08/17 07:07

こんばんは。

White Kings 店主です。

最近
『Seamaster120の内容が少ないから書いて!』
という要望(お叱り?)を沢山頂いております。

当店の無駄に長いコラムを心待ちにして
いらっしゃるる方が多く存在すること、
とても嬉しく思います。

コラムは毎回はああでもないこうでもないと考え
遅々として進まないのですが、
そろそろ120について再度掘り下げようと思います。


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最近当店をお知りになった方に改めてお伝えますと、
当店はOMEGAのダイバーズモデル
『Seamaster120(シーマスター120)』
をきっかけに結成された時計店です。




今でこそOMEGAのドレスウォッチ、
そして時計のエイジングを探求する中で
独自の”色”が店に付いてきた(はず)ですが、
元々はSemaster120のコレクター、
という面も持ち合わせています。

その名残で、
当コラムでも何度か120を取り上げてきました。

120関連コラム


同じモデルを何度入荷しても同じように
感動するスタッフや自分自身を前にすると
『やっぱりこのモデルが好きなんだな』
と安心するとともに、
よく飽きずに扱い続けられるな…と
半ば呆れてもいます。

今回は、Seamaster120の中でも
『フルサイズ』と呼ばれる37mm径の
モデルの魅力と謎についてお話します。


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1960年代後半に脂の乗り切ったOMEGAは
仕様国先や細分化した顧客ニーズに応えるため
一つのモデルに大量の”バリエーション”を
用意し投入し始めました。

時計界で圧倒的なマーケット規模を誇った
OMEGAは元々横展開が得意な面もありました。

これらのバリエーションモデルは一見すると
共通のモデル品番(Ref.)を持っています。

OMEGAのラインナップは混沌を極め
そこに独自の規則性やルールを見出した
コレクターでも正確な真贋は困難です。

Seamaster120(以下、120)は、
その混沌としたラインナップが
最高潮に達した時期に登場しています。





120は他のダイバーズウォッチにはない
独自の世界観を持っています。

Seamaster300の廉価版....というより
一般向けモデルとしてデビューした背景から
従来のダイバーズウォッチにはない試みが
盛り込まれています。

分かりやすいところでは

デイリーユースを意識した薄型機としたこと。
装着感向上を意識したケース形状を採用したこと。
ダイバーズらしかぬ端正なフェイスとしたこと。
4つ(正確には5つ)のムーブメントを用意したこと。
そしてファッション性を意識したこと。





120は、当時OMEGAが新たに導入した
Cラインケース』と呼ばれる
デザインコンセプト採用しています。




元々腕時計のラグ(※ベルトを固定する脚の部分)は
 ”ロウ付け”と呼ばれる溶接方法で後付けすることで
製作されていました。




溶接を行うと本体ケースとラグには
必ず”つなぎ目”生じます。
そのため強い衝撃を受けると曲がったり
金属疲労で折れることもあります。

これではスポーツウォッチと呼ばれる
ハードな使用が想定される時計への
採用には不安が残ります。

120を始めとするCラインケースには
この溶接のつなぎ目がありません。

ステンレスから直接削り出して外装を
作ることでケース本体とラグが一体構造
として製造できるようになったのです。




OMEGAの持つ金属加工技術は、
同時期にデビューしたSeamasterCOSMIC
ワンピースケースでも遺憾なく発揮されています。

このCラインケースの採用により、
OMEGAは重量を抑えながら時計の剛性*を
上げることに成功しています。
(*剛性=ねじれや変形への耐性)

引っかかる段差のないシルエットは
耐衝撃の面でも理に適(かな)っています。
実際Cラインケースはラグの変形といった
症例が少ないと感じています。


Cラインケースは『装着感』においても
他のダイバーズウォッチに対して大きな
アドバンテージがあります。




Cラインケースはその独自の設計思想から
装着時の安定感に優れているとされます。

要は”グラグラせずぴたっと吸い付く”装着感です。




この感覚は当店で試着された方や
実際にCラインケースをお持ちの方なら
お分かりになると思います。

時計の安定感は軽さだけでは実現できません。
120独自の安定感を発揮する要素として
Cラインケース特有の短いラグと、
手首に沿うように弧を描く形状が挙げられます。




例えば手首が細い人が大きな時計を装着すると
時計がグラグラし収まりが悪いことがあります。




多くの場合、横から見ると時計のラグが
やじろべえのように宙に浮いてしまっています。

これは手首の幅や形状と時計のラグの角度
(アール)が合っていないためです。

時計と腕が触れ合う面積が少ないため
時計を”点”で支える形となってしまい
きつくベルトを締めないと時計が安定しません。
※重心が高い位置にある時計も似た現象が起きます。

重量の分散が出来ていないと収まりが悪いだけでなく
手首が痛くなったりすることもあります。


この時代のCラインケースは
時計の縦幅を短くながら手首の曲線に沿わせ
時計を軽くに作り込むことで
他のモデルにはない着用感を実現しています。




手首に腰を据えるように鎮座する
Cラインケースの安定感は病みつきなります。

日本人を始めとするアジア系人種の体格に
120は数値以上にマッチしていると言えます。



更に、当店がSeamaster120を
高く評価している理由は
『これらの要素が専用設計である』
ということです。


デイリーユースモデルだからといって
安易にコストカットに走ることなく
120がCラインケースをベースに 
”一つの時計”として作り込まれている
ことが節々から読み取れます。




次にデザインです。

針は敢えて細く直線的。
インデックスは針と同じ太さに揃え、
ラインがピシッと揃った気持ち良さがあります。




また、ベゼルは両回転の薄型タイプとし、
同年代に出回っていたSeamaster300の
3rdモデルとの差別化を図っています。

ダイバーズ特有の図太い針や重厚な回転ベゼル
を採用しなかった点から、
コンセプトを明確に分けていることが窺えます。

結果としてダイバーズから漂う”コテコテ感”を
敢除しすっきりと整った顔立ちとなっています。




軽やかでセンスある”1960’sらしさ”。
ダイバーズウォッチを、誰もが着けやすい
デザインに昇華させた功績は大きいでしょう。

そのバランスやサイズ感がきちんと計算され
煮詰められているからこそ、
Seamaster120は唯一無二の存在感を
放っているのではないでしょうか。




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針、カラー、年式による仕様、ムーブメント…

自分だけの個体を見つけることができる、
これは他のダイバーズにはない特権です。





ところで、
”Seamaster120のフルサイズにも
 ボーイズサイズと同じく『カラーダイヤル』
はあるのか?”
とご質問をよく頂きます。



これについては、確かに存在します。
店主もフルサイズのカラーダイヤルは
何点か集め、取り扱ってきました。

ただ、せっかくの貴重なエビデンス
(一次資料)を紛失してしまったため、
表立ってデータを公表できないでいます。

フルサイズのカラーバリエーションには
『文字盤とベゼルのカラー論争』が存在します。

例えばボーイズサイズの場合は、
文字盤とベゼルが同色系で纏められています。




対してフルサイズのカラーバリエーションは
ベゼルと文字盤のカラーが一致しないことが殆どです。

これらの個体がオリジナルなのか否か?
という論争です。

『ベゼルがカラーで文字盤が黒』
『いや文字盤も同じ色でなければならない』
『カラーベゼルは後年の後付け』
など議論が続いていますが、
古い画像資料を見る限りは
『どちらもあった』可能性が高いように思います。

1970年ごろの媒体(※公式かは不明)では
どちらの仕様も掲載されているからです。

また、カラーダイヤル×黒文字盤の
組み合わせを持つ個体は、
モデル末期特有の特徴を持ち合わせてる
ことが多く(詳細は伏せます)、
黒文字盤×カラーベゼルの組み合わせが
次々と出てくる点からも、
『ベゼル&ダイヤルのカラーは
完全に一致していなければならない』
という説には疑問符が付きます。

非常に細かな仕様違いや限定モデルを出す
OMEGAの企業体質(?)からも、
店主個人としてはこういった組み合わせは
十分あり得るとは思います。

一つ言えることは、
カラーバリエーションはモデル末期に登場し
混沌としたOMEGAのラインナップの中に
埋もれていたモデルであるということです。

店主は当時を生きていないので
状況証拠の積み重ねしかできませんが、
店主は認知されていない・あるいは
認められていない仕様が『ある』
ことを前提に、研究を進めています。




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時代やムーブメント、
採用されるフォントや外装の違い。

これらは120を愛する我々の心を
掴んで話しません。

そして彼らが持つ微妙なニュアンスの差が
予測不能なエイジングを重ねる中で更に
揺らぎとなって現れていきます。




当店がSeamaster120にいつまでも
飽きないのはある意味必然かもしれません。

今回はSeamaster120
フルサイズについてでした。


White Kings