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2020/01/31 05:51

こんばんは。

WhiteKings(ホワイトキングス)店主です。


Blogの更新時間を見たお客様に「夜型なのですか?」と聞かれることがありますが、半分その通りで半分は仕事のためです。


時差のある海外のコレクターやバイヤーとのやり取りはリアルタイムで部品や時計の入荷状況を確認することも多く、どうしてもこの時間になってしまいます。

状態の良い部品や時計を当店のコレクションとするためにも、当店は絶対数の多い海外を優先して買い付けております。


またHPの更新は現在店主一人で行っており、校正といったダブルチェックや商品アップはお客様の目に触れにくい深夜にやるべきかなと思っております。


ただ眠い目を擦りながら公式サイトの更新を行っていると誤字脱字や誤植があったりとお恥ずかしい限りです。

もう少しサイトも店主も格好良くキメたいところなのですが、まだまだそこは個人時計店の域といったところです。今後の改善を急ぎたいと思います。

今回もサイトやBlogの内容を精査し悩んでいると空が白ずんでしまいました。


前置きが長くなりましたが、当店が愛しているシーマスターでも異色の存在感を放つシリーズ:COSMIC-コスミック-についてお話しします。





COSMICは人類初の有人飛行からアポロ11号の月面着陸、以降の宇宙開発競争激化の歴史をなぞるようにOMEGAのラインナップに存在します。


その名が示す通り”宇宙的”な先進的要素を盛り込んだモデルとして登場したCOSMICのフォルムと構造は、70年代前後の人々が思い描いた”流線型の宇宙船”そのものと言えます。


一見スポーツウォッチともドレスウォッチともつかない独特の形状は、新たな時代の幕開けを感じさせる出立です。


このCOSMICは非常に有名なモデルながら、ヴィンテージOMEGAの中でまだ正当に評価されていないと感じています。


10年以上に渡り生産され、70年代らしいハイスペックな構造を採用した象徴にもかかわらず、その仕様やヒストリーについて触れた情報が少ないのです。


ですので今一度、この時計をしつこいほどに(!)収集してきた当店の情報を小出しにしながらコラムを展開したいと思います。


COSMICのデビューは1962年ごろと言われています。これはOMEGAの公式アーカイブの年表情報です。ただしCOSMICに限らず、搭載するムーブメントはケーシングされるより前に製造されたものも多かったようで、ムーブメントのシリアルNO.が示す製造年と、実際に販売された時期は必ずしも一致しません。


COSMICの特筆すべき特徴は、時計のベゼル(外周部) - ミドルケース - ベルトを固定するラグ部分 - が一体成形された一塊構造=モノブロックケースをいち早く採用した点です。

※当店では、ケース機能を果たしているのはミドルケース+風防も含まれると考えますので、敢えてモノコックと呼ばず部品単位でモノブロックと呼称します。



それまで時計の外装は数点のパーツにより分割構成されていました。これはムーブメントや各消耗品の交換を容易にするためでもあり、また一部のミドルケースは柔らかい真鍮を鋳造して形作られていたことも関連しています。


このモノブロックケースは、金属塊からケースを削り出すことで形作られます。

非常に高度な切削技術と製造コストを要するだけでなく、最終工程は職人の手による面取りが必要であったともいわれています。


モノブロックケースはケース全てを一体成形することでボディー剛性を著しく向上させています。

構造を単純化することでケースは文字通り金属の塊となり、ラグやベゼルといった従来破損しやすかった部分のトラブルが大幅に軽減されます。

店主もモノブロックケースが修復不能なレベルで破損しているのは見たことがありません。


セパレート式の裏蓋やベゼルを廃したことで大きく向上した機能は気密性でした。

裏蓋が消滅したことでパッキンすら不要になり、手首から上る湿気や汗に一定以上の耐性を示しました。

実際、強い使用感があるCOSMICをいざ分解すると、過去の水入りを一切感じさせない綺麗なムーブメントがお目見えすることもあります。


また、一種奇抜ともいえるCOSMICのケースデザインは、性能一辺倒で装着感に欠けるようも見えますが、実際はその真逆です。


COSMICの裏面はまな板のように真っすぐで、一見いかにも装着感の悪そうな姿をしています。


にもかかわらず、実際は手首に吸い付くような素晴らしいフィット感を有しています。


これは縦幅が短くデザインされていること、重心が低くとられていることから、時計全体が手首の平面に乗り、点と点ではなく"面と面"で接することで時計がふらつかず安定する、という設計に由来します。


優れたデザインは優れたユーティリティーを有する好例と言えます。


”宇宙的”なデザインもさることながら、宇宙船のモノコック構造とCOSMICの構造には類似性を感じることができます。

OMEGAの開発者は、硬く密閉された時計内部を宇宙空間から完全に遮断された宇宙船に見立てたのかもしれません。



当時最先端の技術を駆使して構築されたCOSIMICのケースですが、欠点がないわけではありません。


整備の際、モノブロックケースの一体どこからムーブメントを取り出すのか?という問題です。

当然1か所しかありません。プラスチック風防側です。


通常であれば裏蓋を外せば確認できるムーブメントも、風防をカシメて(絞って変形させて)外し、ジョイント式の竜頭を芯棒ごと引き抜き、ムーブメントを固定するロック機構を外して…ようやくムーブメントにアクセスできるのです。


このアクセス方法が曲者で、風防のカシメ方を間違えると一瞬で風防が割れてしまいます。専用の工具と、習熟した分解技術を要します。

また、ジョイント式と呼ばれる竜頭も力任せに引っ張ると破損します。専用工具や経験がない時計店では、安全に分解することすらままならないのです。

そのため、まともに整備を受けることなく油切れとなり、歯車や巻き芯が摩耗しきった個体も多く、非常に当たり外れの差が大きいモデルです。オークションや個人売買で状態の良いCOSMICを引くにはギャンブル要素が強いのが現状です。

個人間取引で流通するCOSMICが、一見とても安く売られているように見えるのはこのためです。

時計店との価格差に釣られて購入し、いざ中を開けたら泣きを見る、と言うパターンはよくある話です。


これらは「ジョイント式竜頭の時計の巻き心地は良くない」という誤った認識を広めた要因でもあります。

丁寧に整備されたCOSMICは、OMEGAの傑作ムーブメントの出来を十分に伝えてくれる上質な巻き心地を発揮します。

ジョイント部分の鋼材は十分な剛性を持っており、巻き心地をスポイルするほどやわな作りではありません。

『嫌な巻き心地』の要因の多くは単純な油切れか、不適切な竜頭やジョイントパーツが装着されていることに由来します。

ジョイント部分の形状が多岐にわたるのもCOSMICの特徴です。ケースやムーブメントによって形状が違うため、パズルのように合わせづらいパーツです。

適当に合わせると竜頭がすっぽ抜けたり、竜頭とケースの間に隙間ができて防水性が損なわれてしまいます。


このように、COSMICは整備や取り扱いに一定の専門知識と技量が必要な時計です。

店主は今まで非常に多くのCOSMICを手にしてきました。販売するCOSMICには適切な整備を行い、その魅力を存分に楽しんで頂けるよう心がけています。


整備面の問題さえクリアすれば、COSMICは非常に優れた、魅力ある時計だと言えます。


次回は当店がCOSMICの大きな魅力と考える、バラエティに富んだデザインについてお伝えします。


【OMEGA】

https://whitekings.theshop.jp/categories/1639382


続く


WhiteKings 店主