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2022/02/23 21:50

こんばんは。

White Kings 店主です。

早いもので、
当店がお店を始めて4年目を迎えました。

2020年と2021年は
息切れしながらなんとか乗り切り、
今年に入りようやくスタッフ体制が
少し改善されそうです。

色々とお待ち頂いている皆様
申し訳御座いません。
あと少しだけ...お待ちください。


今回は、改めて
『当店は決してコレクターやマニア専門の
 時計店というわけではありませんよ』
というお話を交えながら、
(ついでに)時計をご紹介します。



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『OMEGAが売りの店?
   あぁ、 ”よくあるやつ”ですね。笑』

これは、創業当時の当店に向けられた言葉です。


当店のラインナップや情報は、
いわゆる『マニア』層からすると
ごく平凡な内容に映るはずです。

これはお店のコンセプト上
ある程度意図しているものです。

【関連コラム】 


例えば、私がお客様のOMEGAの
手巻きモデルを拝見し竜頭を巻き上げ、
中身の機械が30mmキャリバ―系なのか
Cal.420なのか、はたまたCal.600なのか
感触で判断できるのは、マニア基準だと
実は当たり前で、普通です。

フェイスデザインだけで機械やモデル
の型番を言い当てることなど、
正直何の自慢にもなりません。

マニアやコレクターではない
お客様の立場からすれば
『またまたご謙遜を…』
と突っ込みが入りそうですが、
そこから更に非凡で尖ったものを
求めるのがマニアたちの性(さが)です。


当店は業界の中では若く、新参者です。
当店がお店を始めて以来、
度々『プロの流儀』
なるものを業界内外から問われてきました。

実際、
『〇△のようにレアピースを扱うのがプロだ』
『ロレックスや雲上ブランドは扱えないのか』
と、暗に
"マニアな商材を扱うお店こそが至高"
”そこら辺に転がってるようなモデル
  ばかりのお宅は、プロとして邪道”
と揶揄されることは、未だにあります。


冒頭の言葉。純粋に
『ヴィンテージOMEGAが好きでして』
と答えた若者(当時)に対する返しが
全てをあらわしている気がします。

良くも悪くも、当店はこれらの言葉に
翻弄された時期もありました。



当時の店主がどのような気持ちに
なったかは敢えて言いません。

コレクター上がりっぽく、集めていた
トリコンパックスの話でもしておけば
違う反応が返ってきたかもしれません。

ただ
『こういう思いをするのは僕らで終わりにしよう』
とは、当時強く思いました。



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現代において当たり前の機能も
昔は当たり前ではありませんでした。

非常に画期的な機構として誕生し、
時を経て常識や当たり前になっていきます。

当店のOMEGAの主流ラインナップは
1960年代までのモデルとなります。
これは、OMEGAの最もおいしい部分を
味わえるのがその年代だと感じているためです。


反面、1970年代というのも非常に面白い年代です。
特別だったものが当たり前へと昇華される時代。
それが1970’sの時計たちです。

そのチャレンジ精神は、エポックメーキング
(意: 新時代を切り開く程の意義を持つこと)
と表現するにふさわしい、
時計にとっての一大転換期でした。




1972 OMEGA Constellation 
Chronometer date C-line






Cal.1011と呼ばれる薄型ムーブメントを
搭載したクロノメーターモデル。

1972年。
Cラインケース、またはジェンタモデル
と呼ばれる前期型の後継機として誕生しました。

当店は、この時計を(多分余所より)
高く評価しています。

この時計は、
現代で『当たり前』となった機能が
いち早く、そしてたくさん詰め込まれた
”特別なモデル”だからです。


まず、ガラス。




1970年代の時計のフェイスは、
旧来のアクリル風防(有機ガラス)が廃れ、
無機ガラスとよばれるいわゆる
『普通のガラス』を風防に採用したモデルが
増えていきます。

この時計もそうです。




これは防水パッキンの品質や
金属の切削技術が向上し、
ガラスと外装ケースとの間にパッキン
(ガスケット)を挟み込むことで、
高い防水性が得られるようになったためです。

1972年は、まだ前述のアクリル風防と
ガラス風防の時計が混在していました。

技術的にも、無機ガラスを採用した
初期のメーカーの一つが、OEMEGAです。

また、ケースの内側に隠れるように
ガラスが圧入されており、
旧来のアクリル製のドーム風防のように
ぶつけて割るリスクが格段に減ったとされます。




ちなみに、アクリル風防が採用される
更に前の風防素材は何だったかというと、
なんと1970’sと同じ無機ガラスです。

20世紀初頭ごろの無機ガラスは
パッキンによる圧入ではなく接着が
主でしたので防水性は期待できません。
形状はアクリル風防と同じく
ドーム状のものが中心です。
これは、針と風防が接触しないように
するためだけでなく、
外部から加わる力を分散するのに
ドーム型が向いていたからです。

技術の進歩により時計の風防素材が
無機ガラス→有機ガラス(アクリル)→
無機ガラスと、元に戻った?
のは面白い事実です。


そして日付の早送りは
前後どちらの日付にも合わせられる
ようになりました。




以前の早送り機能は1日ずつジャンプさせる
という代物でしたので、非常に大きな進歩です。



秒針を停止させる”ハック機能”。
時刻合わせの最中、秒針をロックする機構です。




それまでの時計は、時刻合わせ中も
どんどん秒針が進んでいきます。
軍用時計などを除いてハック機構が
搭載されることはほぼありませんでした。

特別が、当たり前になった瞬間です。




そして精度。




時計の精度を上げるために、
ムーブメントの振動数(人間で言う、鼓動)
を速くする設計が主流の時代でした。

毎時28800振動(毎秒8振動)という鼓動は、
まさに現代時計の”標準”となる数字です。

しっかりと整備されたムーブメントの
脈をとると、美しい直線を描きます。
※計器上の線が真っすぐであるほど、
 精度にブレがないと言えます。


そして、各部の”仕上げ”を見せつけてくる
バシッと気持ちよく面の揃った外装。








徹底して面で構成されるフェイスとボディ。
垂直に切り立つOMEGAの文字も相まって
どこかメカニカルで引き締まった印象です。





1970年代の時計はガラス面しかり
『直線』を意識した時計が多くなります。

とにかく金属の切削技術が飛躍的に向上し
各社『どうだ』と言わんばかりに金属面の
美しい仕上がりを全面に押し出しています。

現代時計に通じる『金属の仕上げの良さ』
がここにも垣間見れます。



この年代のConstellationは
実は物凄いチャレンジをしてたという事実。

なぜこの事実が好意的に発信されないのか
店主はずっと疑問に思っています。

攻めすぎた設計ゆえ技術者に嫌われがちな
このムーブメントですが、
そこばかりが強調されるのは
木を見て森を見ずだと感じます。






新たな『当たり前』を形にしたのが、
この1本だと当店は判断しています。


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当店は創業当時から一貫して
『時計は好事家とヲタクだけのものではない』
というスタンスを標榜しています。

これは創業に関わったスタッフ全員が
好事家で、マニアで、ヲタクであるゆえです。
内向き過ぎるスタンスは、やがて衰退を迎える
ことを身をもって体感してきました。

玄人やマニアになると、
こういった『当たり前』を意識することを
疎かにしがちです(自戒の念を込めています)。

もっと身近でいい。
もっと気軽でいい。
何故ならヴィンテージウォッチは
当時の『身近で、当たり前』
が時を経た姿だからです。

だからこそ、
一見無価値でとるに足りぬと軽んじられてきた
当たり前の存在に目を向け、
現代にあった形でどんどん掘り下げるのも
私たちの仕事の流儀だと考えています。





当店がまた
『そこらへんに転がっているようなものばかり
 売って、お宅にプロとしての流儀はあるの?』
と問われたら?

『それは”当たり前”です。』
と返すようにしたいと思います。


【紹介個体】



White Kings