重要なお知らせエリアを非表示

2021/05/30 21:44

こんばんは。

White Kings 店主です。

現在は店舗移転に向けて
慌ただしい日々を過ごしています。

共同出店のArtigiano-Tokyoさんたっての希望で
銀座エリアとなりました(実際はほぼ京橋です)。

行商上がりゆえ
出店エリアには全く頓着のない当店ですが、
アクセス面では複数の路線が交差する場所で
助かる、という声も多く頂いています。

現在の東京店(日本橋)は
あくまで出店ブース扱いでしたが
移転先は正式に店舗という形で出店いたします。


トランクショー主体の当店が実店舗を
持つというのも、いまだに不思議な感覚です。

当店のスタイル的に、コロナがなければ
店舗を持つことはなかったでしょう。

これもひとつのご縁と思い、
精一杯やらせていただきます。


コラムの更新頻度は減っておりますが
Instagramでは積極的に更新を行っております。
先行情報も公開しておりますので是非ご覧下さい。



-------------


真正性。正しいかどうか 。

時計でいえば、
『当時本当にこのような姿だったのか?』
という意味合いです。




こういう真正性に関する研究は、
商売っ気以上の『何か』がないと中々捗りません。

今回は、当店がなぜ『真正性』に拘るのか。
そしてなぜ『リダン』と呼ばれる個体を
敢えて扱わないのか、改めてお話します。





当店は”ただの時計好き”の集まりです。

ヴィンテージウォッチは
好事家や私のようなマニア(オタク)
のためだけの世界ではない。
多くの方にヴィンテージウォッチの存在を
知って頂きたい思いからお店を始めました。

当店が取り扱うヴィンテージウォッチは、
『オリジナル』=当時のまま、がメインです。
過去のコラムでも何度か言及してきました。




店主自身は元々リダン(文字盤の修復や描き直し)
とよばれる修復個体の否定派でも、
オリジナル信仰でもありません。
自身のコレクションにはリダンされた個体も
存在します。

反面、”専門店”を名乗り時計を取り扱う上で、
個人趣味レベルや個人取引で扱うクオリティ=
グレーゾーンの品質では、
販売基準を満たせないとも考えています。

販売品からグレーゾーンを排することは
結果として『真正性』の追求にも繋がっていきます。

お客様の不安要素を排し、確実な時計を
お届けするため、自身で厳しく線引きしています。


このように、今でこそ店主である私が
全ての個体のチェックを行い、仕入れ、
ヴィンテージウォッチを取り扱っていますが、
現体制になったのは比較的最近のことです。

このスタイルに至るには
創業当時の苦い経験があります。







時計店の経営経験がなかった店主は
当初は色々な方の助言のもと商品を揃えました。

紹介をもとに商社さんを入れてみたり
手頃なヴィンテージを沢山卸してもらったり
時には推されるがまま仕入れた事もありました。

内心モヤモヤしながらも
『周りのアドバイスを聞いた方が良い』と
自分に言い聞かせコレクター時代の矜持や信念を
曲げたのは今思えば非常に恥ずかしいことです。

当然それらの時計は全て売れ残りました。
店主自らの言葉で語れなかったからです。

結果として当店は
『色々な時計を扱う素人上がりの中古時計屋さん』
を長く脱することができませんでした。





売れ残った時計の中には
リダンされた個体もありました。

リダンとは、文字盤を再プリントや
様々な手法で描き換えることを指します。

リダンは、時計の美観を復元するための
大切な技術であることは間違いありません。
高品質なリダンは技術も要するので
職人技と言えます。
※日本国内でのリダン技術はほぼ断絶した
とされています。

それと同時に、世の中に出回るリダン品の中には
『売れないから、人気モデル風にしたい』
『中身はともかく、まずは売りたい』
そういった売ることありきの理由で、
何十年と重ねてきた歴史を上書きされて
しまった個体も数多く存在します。

店主はコレクター時代そういった個体を
多数目にしてきました。
そしてそのような個体に限って、
重大な瑕疵(かし)やトラブルを抱えた
個体がベースとなっていたりもします。

売れればいい、からです。

意図的に別モデルに模した文字盤を載せ
無理やりケースを削って別モデルに寄せ、
ろくにメンテもされない状態で
別モデルに仕立て上げられた時計を
開けた時の感情は絶句という言葉そのものです。

そこには創作した人間の哲学や脈絡はなく、
突然本来と全く異なる姿に粉飾させされ、
自らを破壊しながら息絶え絶え動く時計の
姿であり、今でも忘れられません。


過去、当店に流れ着いたリダンの個体は
専門業者の手によるクオリティの高いものでした。
機械の状態も良く、既に別の老舗時計店が
チェックしていたのは幸いだったと思います。

しかし、上記のような出来事が頭をよぎり
どうしても自分の言葉で彼らを語ることが
できませんでした。

それ以来、当店はリダンの取り扱いをやめました。


------------------------------


結果として、
当店は無理に提案の幅を広げる形ではなく
『当店にしかできないこと』を続けています。




集めたOMEGAやBULOVAの
部品や資料を眺めながら
『好き』を貫いてきた当店がやる事は何か。

積み重ねたデータや経験を基にできることは何か。
時計から当時の面影や、温かみを感じて欲しい。
そのためには何を知り、何を守るべきか。

それを毎日考え続け、自然と
オリジナル性を守る=当時の仕様を尊重し、
扱うというスタイルにたどり着きました。

とはいえ、扱う側としては
膨大な資料や経験に基づく地道な答え合わせの
作業になるのでとにかく大変な手間がかかります。

それでも、現実を見てきた者が知る”真正”を
『好き』の立場からお伝えしたいと考えています。

続く

White Kings 店主