2020/05/15 05:30
おはようございます。
WhiteKings 店主です。
その時計がどんなコンセプトかを知るために必要な情報は何でしょうか。
色、形、機能、伝統の意匠。
様々ですが、予備知識なくパッと容易に判断できる材料はやはり”表記”です。
Seamaster、SUBMARINER、NAVITIMER…時計に表記があれば何となく想像がつきます。
シリーズ名は、その時計がどんなコンセプトなのか知る指針になります。
しかしあまりにもシリーズ内で展開されるモデルが多いと、コンセプトを読み取るのが難しくなります。
以前、オメガのGeneveがいかに混沌としたシリーズだったかコラムで取り上げました。
参考コラム：ジュネーブとは何か
ここまでくると、”シリーズ名が書いてあればコンセプトがわかる” 次元を超えてしまいます。
そのため、中には独自のアイコンを備えたモデルも出てきます。
例えば前述コラムの2章でちらりと登場した錨マークの謎のダイバーズウォッチ。
コレクションを手放して久しい店主は敢えて公言はしていませんがSeamaster120と共に愛しているモデルです。
このモデルの呼称は一定しません。海外の一部愛好家は親しみを込めて"アンカー"”提督” 等と呼びます。
1970年代前後にほんの一瞬OMEGAのラインナップに存在したダイバーズモデルで、日本で知る人はごく少数です。当時国内で販売されなかったこと、販売年が短く流通がかなり少ないことが主な理由でしょう。
このジュネーブは海を想起させる錨のアイコンマークを備え、派生モデルもいくつか存在します。
共通点はダイバーズらしい竜頭ガードと、特徴的なカラーリングの針（Seamasterのクロノストップモデルと共通）。
OMEGAは時たま、ペットネームや意匠を置き忘れたかのような派生モデルを世に送り出します。
外装やシリーズ名はそのままに、モデル名や意匠が配されていない仕様の事です。
これはOMEGAの特徴と言うべきか、時代の過渡期にリリースした際によく起きる現象で、時計の素性を追う者を混乱させます。
OMEGAのようなメガブランドは、仕様国の要望に合わせ様々な仕様違いを展開していたのも理由の一つです。
この錨マークのジュネーブにも、やはり素性不明かつミステリアスな仕様が存在しました。
1970’s OMEGA Admiralty NON ANCHOR ”GHOST RED” Cal.601 （手巻き）
アイデンティティであるはずの錨マークが消失したノン・アンカーモデル。
錨マークが消失したことで謎めいた雰囲気が一気に増し、見た者の心を捉えます。
このモデルを初めて見た者は、何ベースなのか全く見当もつかないでしょう。
美しいシェイプのラグ。飛び出した竜頭ガードの曲線も優美です。
Seamaster120系のスキンダイバー（素潜り用モデル）の無駄を省いた様式美を感じさせながら、GENEVE独自のエッセンスを取り入れた意欲作です。
立体インデックスは3面にわたりエッジングされ、複雑で奥行きある表情を見せます。
贅沢な作りからはコストカットや妥協の意図は微塵も感じられず、とにかく手が込んでおり繊細。
明確なオリジナリティを以ってデザインされており、OMEGAの”本気度”が伺えるモデルです。
しかしなぜ防水時計の代名詞である”Seamaseter"を名乗らせず、若年層向けだったGeneveの1モデルに加えたのか全く不明です。
そして当時展開されたカラーバリエーションでも殆ど見かけないワインレッドのフェイス。
当然ながら外装・文字盤共にオリジナル。
OMEGAは70年代このような多色展開をダイバーズを中心に試みていました(過去コラム参照)。
ただこのカラーリングたちは残念なことに、多くが回転ベゼル/針/文字盤が社外品や無関係の部品にすげ替えられています。
併せてオリジナルデータが少なく、オリジナル性を判断できる人材は少数。このようなオリジナルの入荷は根気だけでなく、自ら身銭を切って学ばなければなりません。
当店が好むエイジング、ゴーストベゼル。
海洋的な愛称も相まって、錨を失った（ノンアンカー） ゴーストシップ＝幽霊船といったところでしょうか。
この退色は『必ずしも摩耗とは限らない』と先日のコラムで述べました。
それを示す通り、バキッとエッジの立ったベゼルが摩耗退色を明確に否定しています。
明らかに塗料の特性による退色でしょう。時代と共に儚く透明になっていくベゼルカラーはため息が出ます。
ボディは当時のヘアラインがほぼ完璧に残った極上のコンディション。レアピースとして垂涎の外装状態です。
ちなみに当時は純正の専用ブレスレットが存在しました。商品には新品のレザーベルト(エミッタ製ヴィンテージ加工タイプ)が付属しますが、希望があれば純正のブレスレットをご用意いたします。
こちらは当店規定に則りオーバーホールを実施してからのお渡しとなります。
正式販売前ですが、お問い合わせは受け付けております。
※2020.05.20 販売開始いたしました。
時代の狭間で忘れ去られた美しい”GHOST SHIP"をご堪能頂ければ幸いです。
WhiteKings店主
