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2025/03/19 20:44

こんばんは。White Kings店主です。

最近メディアや書籍で
当店を取り上げて頂く機会が増え、
今までヴィンテージウォッチに
触れてこなかった方に新たに
興味をお持ち頂く機会が増えました。

当店の創業動機の一つが
『ヴィンテージをクローズドな世界で終わらせない』
ですので、大変嬉しく思います。

同時に当店としても、
初めてヴィンテージに触れる方が
『なんのこっちゃ』と疑問に思う部分に
改めてフォーカスしていく必要があるな
と感じています。


今回は基本に立ち返って、ヴィンテージウォッチは
『なぜ非防水』と記載されているのか?
そして皆様が一番気になる
『実際どの程度気を遣わなければならないのか?』

を、当店が専門とするOMEGAを主軸に
コラムとして解説してまいります。

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当店に限らずヴィンテージウォッチは
『非防水』と記載されていることが殆どです。

まず、『古い時計がなぜ防水性を発揮できないのか?』
は各商品の『下記リンクをお読みください』にも
少し記載が御座います。



ヴィンテージウォッチには、
元から『非防水』のタイプと、
販売当時『○○メートル防水』等と謳われ
『防水モデル』だったタイプの2つが存在します。

OMEGAだと当時30m防水を達成したSeamaster
その防水性を活かしたトップモデルConstellation
などが当時の防水時計に挙げられます。
逆にドレスラインの筆頭である Deville の多くや、
無銘と呼ばれるドレス寄りのモデルには
元から”防水仕様ではない”ものが存在します。

【参考: シースター1stモデル(一部、スタッフ私物)。1950年前後におけるOMEGAの主力モデル。当時はフィッシングや船舶など、アクティブシーンの使用を想起させる広告が使われていた】



当店はいずれのタイプ、
当時防水性能がどの程度であったかは関係なく
一律で『非防水』と表記しております。

しかし当店は上記で挙げた防水モデル(当時)のうち、
内部に『防水パッキン』がある構造の場合、
パッキン交換は必ず行なっております。
※現在も生産されており、専門的に入手可能です。

また、外装に修繕不能な腐食が発生しているものは
そもそも商品化をしないようにしております。

冒頭リンクやLOWBEATの取材で触れているように、
”『経年変化』と『劣化』は明確に分けるべき”
というのが、エイジングを大切にする
当店なりの考え方です。

【参考: 過去当店に持ち込まれた個体。外装、特に気密性を確保するために必要な箇所の腐食が激しく、更に内部に不可逆的な(元に戻せない致命的な)改造が施されてしまってる。こういった個体は既に寿命を迎えてしまっており、専門店が販売することはできない】



少し専門的になりますが、
”風防(ガラス面 当時の多くはアクリル製)”や、
”竜頭(リューズまたはリュウズ)と
ケースを繋ぐ「チューブ(ペンダント)」
と呼ばれる部品に関しても、
時計の気密性に直接影響している場合は、
交換、または別作して対応しております。

【出典:『シーマスター物語』(ワールドフォトプレス)。OMEGAはROLEXのねじ込み式竜頭とは異なる防水竜頭を採用していた。具体的には水圧などの圧力がかかることで竜頭とチューブの密閉性が上がる構造である。この構造により竜頭のねじ込み(締め込み)操作が必要ない】



竜頭内部のパッキン(ガスケット)は、
必要な場合のみ行っており、
ご要望がない限り当時のままとなります。
これは当時のオメガの竜頭構造によるもので、
シール(金属部品)を剥がす必要がありますため、
敢えて積極的には行っておりません。
状態の良い純正竜頭に変更することが殆どです。

【参考: 竜頭の腐食の例。奥側のケースの凸部分が”チューブ”で、実は交換が可能。竜頭だけでなく、チューブや、竜頭から伸びる”巻き芯(巻真)”と呼ばれる部品の状態も、時計のコンディションを推測するために重要な部分】



つまり当店の場合『防水機構を復元するための整備』
はオーバーホールの中で一定の水準まで行っています。
にもかかわらず、当店は『防水』を謳っておりません。


【参考: スピードマスターへの搭載で有名となった、クロノグラフの名作Ca.321】



その大きな理由は、
①当時想定された外装の耐用年数を既に過ぎている
②当時想定された『防水』と現代の『防水』基準が異なる
③『防水性』がヴィンテージウォッチの本質ではない

という、古いモノゆえの特殊な事情からきています。

これらはクラシックカーやアンティーク家具、
ヴィンテージアイウェアの扱いなどにも共通した
考え方と言えます。



例えばヴィンテージウォッチが作られた当時、
防水規格はメーカー独自のものでした。
試験方法がメーカーや国によって違うため、
A社とB社の30m防水時計を同じ条件で
試験してみると全く違う結果が出るなどは
日常茶飯事でした。

腕時計が誰もが持つツールとなったことで、
現在は世界共通の防水基準が設けられます。
皆さんも一度は日常で耳にしたことのある
『ISO規格』です。【参考出典: ISO2281 】
現代の時計が『防水』を名乗るには、
この基準をクリアしていなければなりません。

つまり昔と現代では時計の防水基準や
外装構造そのものが違いますので、
現代の防水に対する考え方に当てはめて
考えること自体がナンセンスなのです。

【当店商品。1972年以降の時計はISO規格に対応するため外装構造が変更されている。つまり防水機構が強化されているわけだが、それも適切な整備がされており、時計の外装状態が良いことが大前提。時計の状態は外見で判断できる『綺麗さ』とは別の観点で見る必要がある】



①と③に関連して少し哲学的な話になりますが、
『テセウスの船』という有名な伝説があります。
”全ての部品が交換されたとして、
 果たしてそれは同じものだと言えるのか?”
 という議論です。

『性能の復元』を目的に整備してくと、
本来の見た目からどんどん離れていきます。
外装を未使用品に交換し、竜頭も新品。
内部のムーブメントも別の状態の良いものに。
ガラスも現代的なものに交換。

世の中にはそういった整備もありますが、
果たしてその姿が『ヴィンテージ』に
求めた価値観と同じものなのかは、
ご自身の価値観に則って冷静に考えて
いく必要があります。

当店商品。使い込まれたことで宿る温度感がヴィンテージの醍醐味の一つ。『実物の方が良い』と言って頂けるラインナップを心がけています。 ※風防左上の切れ目はテンションリングです】



当店の場合、
『全ての性能や外観を完全に復元する』
ことが第一目的とならないよう、
本来の性能とヴィンテージが持つ温度感、
その両者が上手くバランスするよう、
整備とラインナップを行っています。

その結果として、
『非防水』と表記することが必要な場合もある、
とご理解いただけますと幸いです。


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ここからが本題です。

では、ヴィンテージウォッチは
読んで字のごとく『防水性が全くない』
のでしょうか?

当店の答えは、
『防汗・防湿性能をある程度考慮した整備を行います』
『だからこそ”日常に寄り添える時計”に特化します』
『ただし、少しだけ気にかけてあげてください』
となります。





当店が
・外装に腐食があるものを避けている
・防水機構を復元するための整備を行っている
ことからわかるように、
OH整備には気密性を上げる作業が含まれています。
つまり湿気や汗に対し一定の耐性を持たせることを
前提に整備・ラインナップを行っています。

元から『非防水』仕様のモデルは少し
使用環境を考慮頂く必要がありますが、
日常生活で少し気をまわしてあげれば
基本的に”常用可能”である、と言えます。

ヴィンテージOMEGAの防水モデルは、
良い内部状態で現存しているものが多い印象です。
これは当時のOMEGAが高い水準の防水機構を
いち早く取り入れていたからにほかなりません。

もちろん『時計を濡らさない』
に越したことはありませんが、
”少しでも水に濡れたらダメ”ということはなく、
数滴の雨粒の付着程度ではあまり影響がありません。
※濡れた場合は乾いた布で拭いてあげてください。

一般的には
・強い雨や水に直接さらす、洗う
・蒸気にさらす・近づける
・高温多湿な環境で長期間使用する
・多量の汗をかくシーンで着用する
・水辺でのご使用
など、時計内部に多量の水分が侵入する
可能性がある行為は避けて頂く必要があります。

当店の経験上、
内部に水気が入り故障してしまう原因は
『竜頭付近からの浸水』が殆どです。

浸水でよく見られるのは
・多量の汗の侵入 
・手を洗う際に竜頭に水がかかっている
などです。

気密性の高い時計ほど、
一度水分が侵入すると抜けにくなります。
前駆症状として風防(ガラス)内部に何度も
曇りが発生することが多く、
この症状が出た場合はすぐにお持ち込み下さい。

【参考:汗の侵入例。当店販売後、1年ほどで時計の不調を感じ入庫。竜頭付近から水気が侵入し錆が広がってしまっている。幸い再度オーバーホール(OH)を行い、錆は除去できた】



ただ、大切に使っていてもイレギュラーは発生します。
万が一水にぬれても諦めず直ぐにお持込みください。
水が入ったらもうおしまい、使えないという事は
基本的にありません。
※文字盤の見た目が大きく変化する場合はあります。

実際この時代のヴィンテージOMEGAは
万一水気が侵入してしまった場合の対策として、
ムーブメント(機械)表面に特殊なコート処理を
施しています。

過去に『水の中に落としてしまった』
というかなり危険な例も何度かありましたが、
いずれも直ぐにお持込み頂いたこともあり、
乾燥作業とOHを行い、幸い大事には至りませんでした。

水気が入ったと感じたら放置しない、
何より不調を感じたら直ぐ対処する
ことが最も大切です。

【参考: 上記画像と同一個体。OHに合わせ、錆をある程度落すことができた例。この時代は現代ほど外装の防水性能が高くなかったこともあり、ムーブメントに防錆処理が施される場合があった。OMEGAのムーブメントがまばゆい赤銅色なのは、時計の性能を守るための機能美にほからない】



意外に思われるかもしれませんが
時計のレザーストラップ(革ベルト)は
汗対策に比較的有効です。
時計に垂れてくる汗を代わりに吸ってくれる
機能的な面を持ち合わせています。
※汗対策で金属ブレスレットを選ぶ方も
多いですが実は根本解決ではありません。

汗による時計への影響が気になる方は
”敢えて”裏面がラバーになっていない
本革をご使用になるのも選択肢です。
※汗の吸湿を前提としたストラップも製作しております

【『ベルトが汗で濡れて傷むのが嫌』『匂うのが嫌』という理由でラバーベルトを選ぶ人もあるが、逆に臭いが出たり自身の汗でかぶれることがある。これはラバーに付着した汗が蒸発しないことで起こる。本革は動物皮革で出来ており基本的に汗を吸い、製法によってはタンニンを使う場合もありその殺菌効果で悪臭を予防できる例もある。『合皮の靴より本革の靴の方が臭いが気になりにくい』という例が分かりやすい】



当店スタッフも365日ほとんどの日常を
ヴィンテージOMEGAで過ごしています。
より詳しいご使用方法については
店頭でお伝え差し上げられたらと思います。

また店頭では実際に整備前の時計内部や
外装状態を直接ご覧頂けるようにしています。
これは取り扱う時計の状態に対する透明性、
どの部品を交換するかを具体的にお伝えするため
行っております。

もし東京店にお越し頂ける方は、
是非お話しできますと幸いです。


今回は
『一口に非防水と言っても色々な考え方があり、
その基準は時代でも、取り扱うお店でも違う』
というお話でした。

White Kings