2023/08/08 02:27
【2025.06.02 加筆修正】
White Kings 店主です。
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当店は、『初めての○○』
お店作りを目指しています。
この”初めて”にはさまざまな意味が
込められていますが、
その一つが
『初めてヴィンテージウォッチを手にする人』
です。
ヴィンテージウォッチに興味を持てなかった、
興味はあるが一歩踏み出せなかった方たちに向け、
消費者側の出身である店主の立場から、
お客様に目線を合わせた発信を心がけています。
ヴィンテージウォッチに限らず、
”沼”に例えられる奥深い趣味の世界は
人生のライフスタイルの一部となり得る
魅力を秘めています。
そしてその熱量が新しい人生観や
心の豊かさにつながることも多々あります。
しかし”沼の世界”は、
ときに知識がない人を置いてけぼりに
してしまったり、
排他的なスタンスになることもあります。
店主は元々かなりのヲタク気質ですから、
そういったマニアやヲタクの良いところ、
悪いところを身をもって体感しています。
ですので、当店がそういった
”分かってる人”だけの空間にならないよう、
開かれたお店で在れたらと考えています。
当店も取り扱い本数が増え、
一見マニアックな時計も入荷するよう
になりました。
同時に、たとえそれが世間一般では
マニアックとされる時計であっても、
”初めての1本”としても自信を持って
お勧めできるモデルであることに
重きを置いています。
古い時計に対する適切な理解と
心ばかりの気遣いさえあれば、
当店の時計には『あなたにはまだ早い』
という時計はありませんし、
30代前半でお店を始めた店主が、
分不相応だと思いながら仕入れた
時計はありません。
全ての個体が、手にする人の日常の延長にある。
それが当店のヴィンテージウォッチのコンセプトです。
ということで、
今回は『初めて』についてです。
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当店が得意なモデルと言えば?
2年ほど前まではSeamaster120でした。
それ自体は今も変わっていないのですが、
お店としても様々な技術的課題を乗り越え
恒常的に扱えるようになったモデルもあります。
その一つが、Seamasterのファーストモデル
と呼ばれる個体群です。

1948年にデビューした、
30m防水を備えた"ドレススポーツ"モデル。
それがSeamaster(シーマスター)の始まりです。
ヴィンテージ好きであれ、車好きであれ、
機械モノやロボット好きであれ、
やはりファーストという単語には弱いのでは
ないでしょうか
勿論、店主もその一人です。
ファースト=ここからすべてが始まった。
という伝説めいたロマンを感じてしまいます。

Seamaster ファーストモデル。
センターセコンドの最初期(ロットNo.1)
※成約品
ファーストモデルは英国軍を始めとする
軍用時計としてOMEGAが製造した
堅牢な構造がベースとなっています。
それゆえというべきか、
その面影を感じさせる印象的な
ディティールを備えています。
まず、いかにも堅牢そうで力強い形状のラグ。
(ラグ:ベルトを支える脚の部分)

それまでの腕時計のラグは後から
別体で作った部品をケース本体に
溶接することで成形していました。
対してSeamasterでは本体ごと
削り出す一体形成です。
軍用時計と同じ製法を取っていながら、
装飾的で繊細な要素も持ち合わせています。
従来の常識を打ち破る、迫力ある仕上げです。

※成約品
次に、重心を低く構えたケースに備わる
フラットで力強いベゼル。

面積を広くとったこの構造は
外装の耐久力向上やフェイス保護の
役割も備えているとされます。
何よりギラリと光の輪を描くベゼルは
一度目にしたら忘れられない存在感です。

※成約品
そしてドレスライクでありながら
独特のスポーティさを湛えるフェイス。
中央に凝縮されるように存在する
短い長短針と秒針は、
時刻の読み間違えを防ぐデザインとして
機能しています。

※スタッフ私物
この特有の針デザインはのちに
Constellationにも受け継がれていきます。
とにかく34.5mmという小径とは思えない
密度を感じさせる佇まいです。
そしてファーストモデル最大の特徴は、
ハンマーのような独特の自動巻きローターを
備えた機構:通称ハーフローターを搭載した
”ドレススポーツモデル”であるという点です。

このレッドゴールドに輝く金属塊が
70年以上前に製造された機械である
とはにわかに信じがたいでしょう。
ゴトン、と脈打つように鈍く動くローターは
ディーゼル機関車のような重厚感です。
現代の洗練された自動巻きと比較すると
一見扱いづらそうな印象を受けますが、
分解すれば当時OMEGAが持ちうる技術力と
合理性の塊であることを理解させられます。
小話として、OEMGAは自動巻きの開発に
乗り遅れたメーカーの一つです。
当時のトップが自動巻きが持て囃される
風潮を嫌ったのが理由とされますが、
やはりOMEGAも時代の流れには逆らえず
自動巻きを投入することになります。
結果としてOMEGAは1960年代にかけて
数々の名作と呼ばれる自動巻きモデルを
生み出すことになるのですが、
ファーストモデルでの成功はその試金石
と言えるでしょう。

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OMEGAが『英国軍への納入モデルの技術を応用』
と謳ったように、純粋なドレスモデルにはない
ドレスらしさとスポーティーさを織り交ぜた姿が、
見る者の心を強く惹きつける。
それがSeamasterファーストモデルです。

※スタッフ私物
当時の開発コンセプトを現代解釈すれば
ドレススポーツモデルのレガシー(歴史)
そのものである。と店主は感じます。
信頼性の問題で軍用時計には採用されなかった
自動巻きをこの"ドレススポーツ"にいち早く
投入した点からも、その本気度が見て取れます。

センターセコンドモデル。※成約品
同時に、Seamasterの誕生には
もう一つの大国の影響が存在します。
世界大戦の勝戦国である、アメリカです。
OMEGAを始めとする時計メーカーは、
最大の貿易相手であるアメリカ市場の
動向を常に意識していました。
そのディティールやマーケティングは
アメリカの世相を反映したものが多く、
実際、当時の広告ポスターなどは
アメリカ市場から発掘されます。

タフで実用的、正確無比な精度、
そして自動巻きという合理的な
構造の採用など、
アメリカンドリームに沸く彼らの
心を掴む存在として君臨しました。
上流階級のみ着用することが
許されたドレスウォッチが、
アメリカンドリームを皮切りに
現実の存在へと変化する中、
ヨーロピアンスタイルと
アメリカンスタイル双方の
融合によって誕生した、
インターナショナルモデルでも
あるのです。

その多国籍でマルチな要素は、
貴族的な時計にとどまらず、
常に実用を意識してきたOMEGAが
確かな品格とツールとしての
優秀さを両立させています。
このファーストモデルを
お選び頂くお客様には、
スーツやジャケットといった
ドレススタイルのみならず、
ヴィンテージファッションや
カジュアルスタイルにも
積極的に取り入れて頂いています。
ドレスという枠組みを柔軟に捉え、
表現の幅を広げるアイテムとして
活用できる素質を備えています。


デビューから75年経った現代でも、
かつてのデザインコンセプトは健在である。
と感じる瞬間です。
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当店はこのファーストモデルを始めとする
初期型のSeamasterの取扱いに力を入れています。
しかし一口に『ファーストモデル』や
初期型といっても、
サイズやデザインにそれなりの振れ幅があります。
狭い括りの中でも、時代を追うごとに
刻々とデザインや機能が変化し、
更に同時進行で複数のケースデザインや
ムーブメントの仕様がも展開されていきます。
ゆえにこっちの個体は自分に似合うけれど、
こっちは似合わない…
そんなことも普通にあり得ます。

ファーストモデルを一度も
見たことがないという方は、
当店としてはできるだけ
ご試着をお薦めします。
ファーストモデルに拘らずとも、
セカンドやサードといった、
ファーストの意匠を受け継いだ
別の魅力的なモデルもございますので、
ご自身に合った1本をお選びください。

このファーストモデルが
初めてのヴィンテージデビューという
方が増えてきています。
当店がヴィンテージOMEGAに
特化し続ける中で、
このファーストモデルの整備技術も
多く集まってきました。
現在では初めてのお客様にも
お勧めしやすい時計の一つとなりました。
70年ほど前に作られたモデルが
現代において実用に足る精度や
耐久性を維持していることが、
扱う側としても最大の驚きです。
ファーストモデルで
ファーストヴィンテージデビューは、
当店は大いにアリだと考えています。
※今回ご紹介したシーマスターファーストは
こちらからご覧いただけます。
White Kings