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2022/12/22 22:12

こんばんは。

White Kings 店主です。

経時の美学展 vol.2が怒涛の中終わりました。
ご来場者の皆様、誠にありがとうございました。




今年も沢山の方にご来店頂きました。
時計屋歴数年の当店が主催するイベントが
ここまで認知されるとは、
去年の開催前では思いもしませんでした。







『年末にこのイベントがないと締まらないね』
と出展者様にも仰って頂いたので、
来年も開催する前提でイベントをより
洗練させておきたいと考えています。
来年もよろしくお願いいたします。



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当店の時計について、お客様に
『どこからこんなにたくさん仕入れるのですか』
と聞かれることがあります。

お客様にとっては非常に興味がある部分
だと思います。




元々店主は欧州やオーストラリアの
コレクターを中心に親交を持っていました。
しかし商売としての規模を持つとなかなか
コレクター間だけで回すのは難しくなってきます。




コレクターも言うなればいち消費者ですので、
場合によってはプロ同士のやり取りより
確度の低い個体を買ってしまうこともあります。
(当時はその事実に気づきませんでしたが)

そのため、販売商品の確度を高めるためにも
現在は様々なルートを駆使します。
極端なことを言えば本物である確証があり、
そして個体が当店のスタンスに沿うならば
どこからでも仕入れができるようになった、
と言えます。

そう、仕入れ自体は知識さえあれば
誰でもできる簡単な仕事なのです。




同時に、当店は仕入れの”前後”こそが
時計店にとって最も重要。と考える立場です。

実際、
店主がコレクターをやってきた10年と
仕事としての質を求められるようになった
今では、時計を通して見える”景色”が違う
と感じています。

これは
『いやぁ高いところまで来たなあ』
というしょうもない自己肯定の話ではなく、
『同じ目線からモノを見たときの景色(見え方)
 が大きく変わった』ということです。




商売をやる前は
『資金を使って仕入れるのは大変だろうなあ』
と思っていましたが、いざ仕事を始めると
一番の重圧は『仕入れた後』だということに
気づかされます。

コレクター時代では『きっとこんなもんだろう』
と軽く流していたものが
お金を頂く側としてのクオリティを追求する中で
モノゴトの解像度が上がり、
看過できない問題として目に見えるように
なってしまいます。




全ての時計には販売責任が生まれますから
個体を精査せず右から左に流すような
いい加減な仕事をすれば即座に信用を失います。
お客様からも協力者からもそっぽを向かれるでしょう。
一度失った信用は簡単には戻りません。

そして仕入れに失敗しても、
自分の考えやセンスが認められくても、
時計に不具合が発生して怒鳴られても、
莫大な整備費用で赤字になっても、
明日のご飯がなくなっても、
すべては自己責任の世界。
それが自分でお店をやるという事です。




誰から仕入れるか。
仕入れた後自信を持って直して販売できるか。
最後まで全ての面倒を見切る覚悟はあるのか。

挙げればきりがありませんが、
自分のためだけではない『誰かのため』
という目線を意識しながら行う仕入れは
コレクター時代とはまた違った緊張感や
真剣さ...そして熱がこもります。

それを『つらい』と思わず続けられるのは、
結局本質的に時計が好きだという
ブレない部分があるからかもしれません。
…いや、多少は辛いですが。


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当店が取り扱う数少ない
ジャパンヴィンテージモデルの1つに
Grand Seiko(グランドセイコー)
の初代: ファーストモデルがあります。



※成約済み


当店は
『日常に根差した時計を取り扱いたい』
『時計の唯一無二の表情を捉えたい』
と常日ごろからしつこく発信しています。

丈夫で、ちゃんと直せて、
ルールを守れば普段使いでき、
値段も頑張れば手が届く範囲。
親から子へ、孫へ、あるいは違う誰かへ。
使い込まれていく過程で形成される
唯一無二の表情を愛でる。

そういったモノの見方が基準です。

以前のコラムでも書いたように
そういった使い方ができる
ジャパンヴィンテージウォッチは
正直限られている。と店主は思っています。

当時のSEIKOのフラッグシップ機である
グランドセイコーファースト(以下GS1st)
そういった使い方ができる数少ない
モデルだと考えています。


今更、といったところですが
当店のジャパンヴィンテージウォッチは
本田義彦氏の協力のもと取り扱っています。

セイコーの『トンボ本』を完成に導いた
人物ですので国産時計好きで彼を知らない
人はいないでしょう。

本田氏は多忙ゆえ自身の公式サイトで
商品を販売することは稀です。
基本的に行商先まで彼を追いかける
形になりますが、必ず狙ったモデルが
あるとは限らないのがBQクオリティ。




ジャパンヴィンテージを取り扱う上で
国内で彼の右に出るディーラーは
いないと当店は考えています。
当店の意図をハイコンテクスト(暗黙のルール)
として理解頂ける立場としても。

”誰から仕入れるか?”
GS1stに関しては当店はこれが正しい
と判断しています。
本田氏の存在がなければGS1stを
扱うことすらなかったでしょう。

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当店がGS1stを扱う最大の理由。

時を重ねた時計の表情を構成する
”エイジング”が非常に魅力的である。
つまり、GS1stにしか出せない表情がある。
これに尽きます。




陶磁器の世界では、
その個体に現れる模様やひび割れ、
作品一つ一つの表情を『景色』と
表現するそうです。




当店はとても素敵な表現だと感じます。

素地や釉薬(ゆうやく)、焼き方によって
仕上がりの方向性はある程度決まりますが、
人間が完全にコントロールすることは
できません。




当店は時計が時を重ねる中で醸成される
表情は陶磁器の”景色”に似ていると感じます。

GS1stの焼け方は実に独特です。
元々の文字盤の仕上げ自体は、
決して華美ではありません。

マットな中にほのかに艶を帯びた質感。
滲み出る上質感といったところでしょうか。


※成約済み。


GS1stには様々な文字盤の種類があります。
年代、仕様、そして使われ方によって
焼け方が大きく変わってきますが、
それがこのモデルだけの”景色”となって現れます。

やはりどれも『GS1st』の世界観なのです。



※成約済み


当店が本田氏にGS1stをお願いする際は
『一番よく焼けている個体をお願いします』
と伝えています。

これらGS1st特有の焼け方は
OMEGAの時計にない、
GS1stでしか味わえない魅力に
満ちたものだからです。


※成約済み。


当店がGS1st取り扱う上で外せないのが
『エイジング以外にも”GSらしさ”が
 残っているかどうか』という点です。

それが、この針とインデックスの輝き。


1962 Grand Seiko 1st(販売中)


セイコーの愛好家の間で”SDダイヤル”と
呼ばれるこの仕様は、針とインデックスが
金無垢で出来ています。
そして、しっかりと面取りされた角は
研ぎ澄まされた日本刀のように輝きます。




当店は時計の針の焼けを肯定的に捉えますが
GS1stだけは焼けのない針で指定します。
GS1stにとってのアイデンティティである
と考えているからです。

赤とも茶ともグレーともつかない、
陰影の中で刻々と変わりゆく
言葉に出来ない表情。






焼けた表情からは想像できないほど
強い輝きを持つインデックスと針の
コントラスト。




この強烈な対比が、見る者の心を鷲掴みにします。

シミや焼けがない、”綺麗”な個体がいいよね。
そう話していた過去の自分と今の自分では
この時計を眺めたときの景色が違います。




その時計に込められた表情の深みや起伏に
自身の人生や誰かへの想いを重ねている
のかもしれません。





こちらの個体は公式サイトにて販売開始しました。




当店なりの思いと、
本田氏の矜持を込めた1本です。

貴方にとって、この時計は、
どのような景色に映るでしょうか。
店頭でその感想をお聞かせください。


White Kings