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2022/04/27 00:10

こんばんは。

White Kings店主です。

今回はOMEGAを代表する手巻き式機械
=30mmキャリバーについてお話します。






OMEGAのヴィンテージウォッチを知る上で
1939年に登場した手巻き式ムーブメント
『30mmキャリバー』
を抜きに語ることはできません。



30mmキャリバ―。
OMEGAに多少詳しくなると
必ず耳にするムーブメントです。

多くの方はこの『30mmキャリバー』
の定義がいまいちよく分かっていない
のではないでしょうか。

30mmキャリバ―は
1939年に誕生したムーブメント”Cal.30”
を指す言葉であると同時に、
Cal.30をベースとする一連のシリーズ。
そして、これらを搭載するモデル自体を
指す言葉でもあります。




精度を競い合う精度コンクールのために生まれた
30mmの外径を持つムーブメントは、
直径をそのままとって”Cal.30”と名付けられました。


当時の規格目いっぱいまで直径を拡大。
とにかく頑丈・精度が良く出て、安定した性能。
そして整備や調整も容易。
文字通り『時計史を塗り替える』程の
完成度と素養を持ち合わせていました。


その実績はすさまじいもので
1940年に行われた精度コンクール
(クロノメーターコンクール)
より新たに設けられた『腕時計部門』で
名だたる高級メーカーらを抑え、
いきなり1位の成績を獲得してしまいました。

その後も様々な記録を塗り替えていく
文字通り”伝説の機械”です。


※30キャリバーのクロノメーター機

OMEGAはCal.30を改修するとともに、
量産体制にのせ市販化に漕ぎつけます。

抜群の信頼性を武器にCal.30は改修を重ね
最終的には通算20を超えるバリエーションが
誕生しました。

それが一連の”30mmキャリバー”シリーズです。

この30mmキャリバーシリーズ、資料を見ると
・1939年デビュー
・1940年デビュー
・1963年製造終了
・1966年製造終了

など、やや分かりにくい表現が
混在しています。

これらは上から順に
・30mmキャリバーがデビューした年
・精度コンクールで一般認知された年
・ムーブメントの”開発”が終了した年
・ムーブメントの”製造”が終了した年
とされます。

30年近くにもわたり改良を重ねながら
製造され続けたことからも
いかに優れたムーブメントだったか、
ということが分かります。


※OMEGA SUVERAN
この搭載機もCal.30がベースとなっている


また、30mmキャリバーを搭載する時計は
当時としては大型なモデルが多いのも特徴です。

機械だけで直径が30mmもあるのですから
外装のケースも大型になるのは必然と言えます。

そのためヴィンテージモデルの中では
適度なサイズと存在感があります。

大きなフェイスを眺めながら
その風貌を存分に堪能できる点は
小径モデルにない魅力ともいえます。





そのため現行時計から初めてヴィンテージに
挑戦する方も違和感なく受け入れられます。




現在のヴィンテージOMEGAが
『”使える”ヴィンテージ時計』
という立ち位置を確立したのも、
この30mmキャリバーの功績が
非常に大きいと言えます。

長年製造されただけあって、
様々なバリエーションとともに
その精度と信頼性を堪能することが
できるのが大きな魅力です。





しかしその30mmキャリバーの快進撃も
1960年代に差し掛かると陰りが見え始めます。

時代はハイビート化
(振動数:人で言う鼓動を上げ精度を向上させる手法)
機械の薄型化・そして自動巻き化が進んでいました。



高精度・薄型機として開発された
Cal.1011。


大きく、重く、ロービートな30mmキャリバーは、
当時ですらもはやクラシックカーのような存在。

年月を重ねこれ以上ないほどに洗練された機械には
もはやブラッシュアップする余地も残されておらず、
過去の遺産となりつつありました。




そしてついに1963年をもって
30mmキャリバー開発は打ち切られます。

そしてこれを発端とし
30mmキャリバーを搭載した
最後の時計が登場します。

その時計にはキャリバーの
名そのものを表す
” 30”が刻まれました。

Seamaster 30です。


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1962 OMEGA Seamaster30 
40μ Gold Plated Cal.286






こちらはCal.269と並び
”最後の30mmキャリバー”と称される
Cal.286を搭載する個体です。

元々スモールセコンドであったCal.30の名残で
”出車”と呼ばれる、ムーブメントの地板から
はみ出した歯車が載っているのが特徴です。




これは元々のスモールセコンドの位置から
センターセコンドの位置に秒針の動力を
伝えるために、開発の中で”改修”された機構です。

既に製造から60年が経過した中でも、
地厚に施されたBeCuメッキや
Seamasterシリーズの確かな防水機構の
おかげで、近年作られたかのような
美しい美観を保っています。


Seamasterのサインの下に
誇らしげに刻まれた”30”の数字。




OMEGAの歴史において、
ムーブメントの名が直接ペットネームになったのは
このSeamaster30(シーマスター30)と
直系の後継機にあたるSeamaster600
(シーマスター600)のみです。

このモデルの販売を以って、
OMEGAは30mmキャリバーの開発を終了しています
(製造自体は1966年ごろまで続きます)。



ところで、なぜOMEGAは1960年代になってから
”30”と文字盤に刻ませたのでしょう?

30mmキャリバーを搭載するSeamasterは
1950年代半ばにはデビューしていたのにです。
それらの時計には当然”30”の文字はありません。

店主は、OMEGAが歴史あるこのキャリバーに
有終の美を飾らせるために
Seamaster30 という『モデル』を
花道として用意したのではとも考えています。

時流から鑑みて、
OMEGAはSeamaster30のデビュー前後で
30mmキャリバーの開発打ち切りを
決断していた可能性が高いでしょう。

当時時代遅れとされた30mmキャリバーの名を
わざわざ全面に出すとしたら理由は限られます。

そう思うと、このSeamaster30が
OMEGAの歴史の一つの区切りとして
特別な意味を帯びてくる気がします。


その功績を引き継ぐべくSeamaster600が登場し
文字通り30mmキャリバーの正当後継として
その信頼性を勝ち取っていきます。




30から600へ。
新時代の手巻きムーブメントへと
バトンが繋がれたと同時に、
30年近くに及んだ30mmキャリバーの
歴史が幕を下ろしました。


.....


改めて、Seamaster30の魅力です。


35mmを超える大ぶりのボディ。
無駄を省き、機能性を重視した端正なシルエットは
1960年代のトレンドでもありました。




ビッグフェイスに対し短く設計されたラグのおかげで
時計が手首からはみ出すことはありません。




1960年代は”メッキ”が採用され始めた時代です。
ただ、当時の40μという大変地厚なメッキは、
もはや金張りとの差がないほど厚みがあります。

OMEGAの場合は、ラグの裏側を見てメッキか
金張りか判断可能です(ステンレス仕様の場合)。


たっぷりとしたフェイスの”面積”は
Seamaster30の大きな魅力でもあります。



現代時計に慣れ親しんだ人にも違和感なく
ヴィンテージモデルに移行できるサイズです。



1960年代初頭と言えばこの縦に走るヘアライン。



上品でありながら僅かに金属光沢を帯びた仕上げ。
スポーティさとドレッシーさの匙加減が絶妙です。


迫力ある立体レリーフも
所有欲をかき立てられるポイント。







もう1点。
30mmキャリバーを積んだ面白い個体です。


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1953 OMEGA Seamaster case
Black mirror ”Galaxy” Cal.266





文字盤のグロス(艶)が完全に退色した、
いわゆるギャラクシーエイジング。

単なる劣化では到底片付けられない
とても美しいエイジングです。




Cal,420と同じく長針が非常に長く、
ミニッツマーカー(秒を読み取る目盛り)を
通り越し文字盤のふちギリギリまで伸びています。
当時の広告を見てもこの仕様が30mmキャリバ―
搭載モデルの標準だったようです。

こちらの個体は、
当時30mmキャリバーを積んだSeamaster
に採用されていた防水ケース仕様です。




つまり、Seamasterの外装を持つ 非Seamaster。

当時はSeamasterのペットネームが入らなくとも
Seamasterとして売り出されていたモデルが
多数存在します。

このモデルはOMEGA公式アーカイブ上では
『OTHER(その他)』に分類されていますが
実際はSeamasterの1モデルであった可能性
が高いと思われます。



この年代の時計の醍醐味は、
何といっても同心円状にくりぬかれた
スモールセコンドの奥行き感。




レコードのような輝きを放つスモールセコンドは
思わず手のひらに乗せ、くるくると光に当てながら
虹色の反射を楽しんでしまいます。


ミリタリーにも通ずるストイックさは
36mmという大ぶりの形状と、
鋭いくさび形のインデックスから醸し出されています。





機械はスモールセコンド版30mmキャリバー
の名作: Cal.266。




こちらは先ほどのCal.286とら異なり
原型のCal.30と同じく出車のない
スッキリとした構造です。

手巻きの魅力はその『巻き心地』にさえある
と言われます。

いかにも頑丈で剛性のある
ガッチリとした巻き心地は、
ヴィンテージモデルに感じる
不安を吹き飛ばし、
『こいつなら大丈夫』と思わせてくれる
圧倒的な安心感を伝えてきます。

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当店が
『一度は手にしておくべきOMEGAは何か』
と問われたら、間違いなく
『30mmキャリバーを搭載したヴィンテージモデル』
と答えます。

昨今OMEGA好きを熱狂させる
Speedmasterが生まれる更に前、
OMEGAの『精度への誇り』を具現化した
この名機こそ有無を言わせぬ”伝説”だと
当店は考えています。

なにより、”今は亡き機械”という点も踏まえ
少しでも早く、状態の良い30mmキャリバーに
触れてほしいという当店なりの願いもあります。

今回は、3針のシンプルな時計に執着し続ける?
当店が敬愛する手巻き時計の伝説についてでした。



【紹介個体①】




【紹介個体②】



White Kings 店主