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2020/03/21 10:01

おはようございます。

WhiteKings(ホワイトキングス) 店主です。


名作と呼ばれる時計を含め、優れたデザインの多くは黄金比に基づき構成されていると言われます。

優れたデザインが結果的に黄金比だったというケースもあります。


これに倣い、ヴィンテージウォッチの多くはメーカー独自の不文律のセオリーに則って設計されていることが多いと言えます。

また各メーカーの意匠や年代毎の変遷を理解することで、模造品・無関係の部品を繋ぎ合わせ創造された非オリジナル品を見抜き、排除することができます。

※真贋に係る豆知識的な情報は主に当店Twitterアカウントで時々発信しております。


とはいえ店主はコレクター出身の身ですので、まだまだ知らない・知らなければならない情報ばかりで、この仕事を始めてから毎日が新しい発見と驚きに満ちています。

そういった情報を時計好き・少しでも時計に興味のある方々と共有していけたらと思っております。



今回はそういったデザインの決まり事=セオリーから外れた”イレギュラーな時計”をご紹介します。


愛好家たちが時計のデザインの良し悪しを判断する上で、針の形や長さ・仕上げ・色・錆具合…といったように、”針”を重要なファクターと捉える傾向があります。


それほどまでに針のデザインや質感は時計の印象を左右するといえます。


メーカーも針形状には拘りがあり、ROLEXの”ベンツ針”、OMEGAの”アルファ針”(ドルフィンハンド)など、針自体がアイコンとなることもしばしばで、そのバランスにも細心の注意を払っています。


ヴィンテージウォッチに不自然さを感じる場合、別モデルの針が修復過程で取り付けられたことに要因があったりします。


ところがメーカーは、時にその不文律をおかして非常に興味深い時計をリリースすることがあります。


1950’s

OMEGA Seamaster Dlack Dial Handwinding  Cal.420


オリジナルミラーダイヤル。

乾燥地域の個体のエイジングで時折みられる、地金が透けてキラキラと輝く個体です(当店は勝手にGalaxyと呼んでいます)。


鋭いクサビ形インデックスに飛びアラビアの数字・文字盤の中央寄りに描かれたセコンドマーカー・そしてドルフィンハンドの組み合わせは、一見シーマスターの伝統的なデザインです。

初代シーマスター風と言って差し支えないでしょう。




この個体を見て”おや”と思う方がいらしたら、かなり時計のデザインを読み解いていらっしゃると思います。

その理由は分を指し示す長針にあります。


通常、中央寄りに描かれたセコンドマーカーと針は、先端同士が向かい合うようにデザインされます。

過去掲載個体


これはセコンドマーカーの位置と針の長さが対になることで時刻を読み取りやすくするためで、針を短くすることで必然的に生まれたマーカーのデザインでもあります。


初期のシーマスターやコンステレーションはこの意匠を踏襲しています。


今回の個体に戻ります。

長針が、本来向かい合うはずのマーカーをはみ出し文字盤ギリギリまで鋭く伸びています。


にも拘らず、秒針はマーカーとぴったりと向かい合う長さです。


セオリーから言えば、OMEGAが踏襲してきたデザインから破綻しており、非オリジナルの針がついていると見做されてもおかしくありません。


しかしこの針は歴としたオリジナルです。

店主の収集歴から、Cal.420を搭載するSeamasterはなぜかこの長い針を採用しています。

当時のカタログでも、たしかに長針はマーカーからはみ出しています。


OMEGAはこれより以前にも、30㎜キャリバー搭載モデルで時折唐突にこのデザインを採用しており、これが何を意味するのかは当店もわかりません。


ただ、細く鋭く伸びた長針はマーカーの視認性を邪魔することなくデザインに溶け込んでおり、不文律をおかしたことでむしろ独特の美しさを醸し出しています。


この針の長さ、どことなくOMEGAの宿敵? ROLEXのExplorerⅠの佇まいを彷彿とさせるのは店主だけでしょうか。



時計のセオリーを理解することで、裏の裏をかいた不思議な世界を堪能することができます。


当店はこうした”イレギュラー”な時計たちを掘り下げることで、唯一無二な出会いをご提供していけたらと考えています。


WhiteKings 店主