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2021/09/02 00:40

こんばんは。

White Kings 店主です。

知識は、ときに元の好みや固定観念を超えて
人の価値観を動かすことがあります。

例えば店主は時計好きになるまで
ダイバーズウォッチが苦手でした。

本体のフチにやたらポップに描かれた
数字のデザインは一体何なんだ!ダサい!
と感じていたものです。

しかしそれが『潜水のための計器である』
と知ったとき、なんて機能的なんだと
非常に感心したことを今でも覚えています。

”時計のデザインに『何となく』はない”
ということを、よく当店は発信しています。

時計は常に身に着ける装飾品であり、ツール(道具)。
そのデザインは『なるべくしてそうなっている』
ことが殆どです。

時計に限らず、一見奇抜なモードファッションも、
何となしに崩しているわけではなく
緻密に計算された表現を内包していますね。

自分にとって理解が追いつかないものを
『感性に合わない』『趣味と違う』と
拒絶したくなる気持ちをぐっと抑え、
なぜそうなっているのか?を考えてみると
ヴィンテージウォッチは非常に面白くなります。

好き嫌いを判断するのは、
それからでも遅くないと店主は思います。

結果、店主はヴィンテージダイバーズが
大好きになりましたから。



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1年ぶりの続編です。

他のモデルにはない強烈な魅力を持ちながらも
当時は『アイデンティティが希薄』と看做され
短命に終わった初代Ranchero-ランチェロ。

コレクターにとって名の知れたモデルながら、
オフィシャル系の文献や資料でここまで情報がない
時計も珍しいものです。

OMEGAはランチェロに恨みでもあるのか
と思うことさえあります。笑

初代ランチェロには実は多くのバリエーションが
存在したことが知られていますが、
そのお話は後日改めてご紹介します。


12年後に西欧でひっそりと復活を遂げたランチェロ。
【関連コラム 二度消えた伝説(1)

その後の調査?で、前回コラムで『販売は3年程度』
と言及していた当モデルは、もう少し長く製造された
可能性も出てきました。

一部のムーブメントの製造No.が
1970年代中盤以降まで及んでいるからです。
つまり3年以上継続販売されていた可能性があります。
(このあたりはもう少し調べたいと考えています)


今回の入荷でまた少し面白い発見がありました。

このランチェロの外装は
同時期のSeamasterのモデルと一部共有されています。
しかし、品番(リファレンスNo.)は完全に
ランチェロ固有のものです。

復活したランチェロが新たに得たアイデンティティは
『耐磁インナーケース』でした。




合金製のインナーケースは薄型かつ軽量。

外装パーツを共有するSeamasterには
この仕様はありません。

色々な意味で
ランチェロの進化を感じさせるものでした。

これもかつての雪辱を晴らすために
独自機構として搭載された…と思うのですが。



1970’s OMRGA Ranchero 2nd Cal.1030



今回のこの個体、すぐにおかしな点に気づきます。

ケースバックにでかでかと刻まれるはずの
Ωマークが見当たりません。無印。




そして内部を覗くと…




手巻きムーブメントの上にあるはずの
インナーケースが....ない?



入荷直後は『(改造品を)掴まされたのか?』と
少しだけ動揺しました。

しかし、裏蓋に刻まれた情報を読み解くと
まさにランチェロの品番。

この”無印”モデル、手巻きに限った仕様ではなく
手巻き・自動巻きモデルどちらにも存在します。

つまり、当時まったくの別のバリエーションが
2つ存在した、ということになります。

無印仕様は、1970年代前半に集中しているように
感じますので、もしかすると『前期型』
なのかもしれませんが、現情報では確定していません。

改めて観察すると、その佇まいは実に独特です。




どう見ても37mmはあるだろうという
大ぶりのケースは、何と直径35mm。




ラグ幅も18mmと、ザ・ヴィンテージサイズです。

耐磁性や耐久性、防水性を上げるためであろう
肉厚のボディの存在感はなかなか強烈。




フラットなベゼル。




このキレのあるベゼルの人気は非常に高い。

文字盤はよく見ると外周の目盛り=
ミニッツ―マーカーに角度がついています。




おかげで視認性は非常に良い。

ボディデザインは SeamasterCOSMICに代表される
ジェラルド・ジェンタ氏のCラインケースの形状を踏襲。






食わず嫌いの筆頭に挙がるCラインケースは
人の腕に乗せて初めて完成するデザイン。
重心が低いおかげか、装着感はすこぶる良い。




縦幅が大幅に拡大されながらもフィット感は人間工学に
基づいた設計のCラインケースならではといったところ。

※私は手首周りが15㎝しかありませんので、
16㎝以上の方はもっと格好がつくかもしれません。

インナーケースがないことで、
またしても”コンセプトが謎”となってしまった
憂き仕様。

何も知らなければ『何だこの時計は』
で流されてしまいそうなこの個体も、
ランチェロの歴史を知った上で接すると
愛着がわいてきます。

奇しくも初代と同じ失敗を犯した事実も
今となっては笑い話です。
時計として見れば、混迷を極めた1970’s
の魅力が詰め込まれた1本でしょう。

こちらの時計は東京店に御座います。

他のCラインケースと見比べて、
このモデルの不思議な魅力をご覧頂きたいと思います。

White Kings 店主