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2020/06/13 03:35

こんばんは。
WhiteKings店主です。

OMEGAには伝説と呼ばれるモデルがいくつか存在します。

例えば、Seamaster300、Speedmaster、Railmaster…。

これらは2017年、生誕60周年を記念して3部作”トリロジー”として復活を遂げました。

しかしその輝かしい復活の歴史の裏で、忘れられた時計があります。


OMEGAファンにとって最も悲運な存在の一つ。
”Ranchero(ランチェロ)”です。



当時のカタログと思しき画。詳細不明


三部作に共通するアローハンド、レイルマスターによく似た黒文字盤=ブラックダイヤル、夜光が厚く塗られた鋭いクサビ型インデックスは、OMEGAではお馴染みとなった”プロフェッショナルの顔”。

OMEGAの歴史を体現する象徴的な大型ムーブメント『30mmキャリバー』を搭載しながらも、非常に戦略的な販売価格に打って出、一般層への普及を狙いました。

Rancheroは当時の三部作の成功に続く”四つ目の伝説”となるはずでした。

しかしOMEGAの戦略的展開は失敗に終わります。

『計測(空)のSpeedmaster』『潜水(海)のSeamaster300』『耐磁(鉄道)のRailmaster』

彼らの明確なキャラクターに対し、Rancheroは一見これといった特徴や性能を有していませんでした。
Rancheroは安価で平凡な時計として人々の目に映りました。

併せてそのネーミングも、購買意欲を大きく削ぐことになります。

OMEGAは普及に向けたイメージ戦略として、フィールドワーカー:主に農業従事者への訴求を目標にRanchero=牧場主と名付けました。
しかし、この名前が欧州で非常に不評でした。

プロフェッショナル然とし、洗練された兄弟モデルのネーミングに対し、なんだか田舎っぽく、垢抜けない印象に映ったようです。

(当時は)いまいちなネーミングセンスと、パッとしない性能。
Rancheroは発売からわずか3年で市場から姿を消します。


しかしそれから半世紀経ち、その精悍な風貌からRancheroは改めて愛好家から評価を受け始めます。
他のプロフェッショナルモデルに酷似した外観に、愛好家たちが目を付けたのです。

とはいえ3年余りの製造年数、当時の超不人気モデル。まともな個体が残っているはずはありません。

人気にあやかり、Ranchero”風”の個体がせっせと作られ、世に出回り始めます。
現在は『見かけたらまず偽物』という、地雷物件の代表格として君臨しています。

そしてここまで注目されているにもかかわらず、OMEGAは一向にこのモデルを復刻しません。

どこまで行っても悲運なモデルです。

Google検索には『ランチェロ 復刻』という、愛好家たちの妄想が形作った予測変換が虚しく表示されます。



しかしこのRanchero、実は人知れず『復活』を遂げていたのはご存じでしょうか。
今から45年ほど前に、です。



1974 OMEGA Ranchero Automatic Ca.1014  Size:35㎜




元祖・Rancheroをご存じの方は面食らうでしょう。

画像だけを見れば『誰だこんな粗悪な偽物を作ったのは』 と鼻で笑うレベルです。

歴とした実在モデルです。

70’sテイストで相当にリファインされたこの2代目・Rancheroは、ヨーロッパの仕様国限定でひっそりと販売されていました。


店主はこの時計を手にして『美しい』と感じました。

まるでヴィンテージのグランド・セイコーのような、縦長のCラインケース。







太めのベゼルがサイズ以上のインパクトを与えます。
36㎜以上あるのではないかと思わせるのも、このフェイスと図太いラグのおかげでしょう。


Speedmasterのように角度のついたダイヤル外周と、それに合わせて短く切り詰められた針。








注射針のように先端の尖った針形状は、近くで見ると非常に美しい。
ダイヤルはほぼ劣化なく当時の輝きを湛えています。


これまた独特のフォントで再現された”Ranchero”。






Swiss Made の表記がありません。これが標準です。

よく『スイスメイド表記の有無』や、風防中央のΩの透かしが真贋基準と思われがちですが、全く関係ありません。
スイスメイドやΩの透かしが入った偽物もありますし、逆もしかりです。


しかしかつての牧歌的な印象はどこへやら。
コスミックブームでハイテクな雰囲気を醸し出しています。


驚くべきはその内装。
薄型の耐磁ケースを備えています。




かつての雪辱を晴らすかのように、機能面で充実化を図っています。

ムーブメントは傑作機の一つに数えられるハイビート・ムーブメントのCal.1012。




60'sの傑作機たちの影に隠れていますが間違いのない名機です。
ネットでの評価と実際の性能が大きく乖離したムーブメントだと店主は感じています。


初代Rancheroとは趣を変えながらも、実用であれという初代のDNAを受け継ぎ、いかにも頑丈で独創的、そして美しい時計へと進化しました。




しかしなぜこのモデルが復活したのか、なぜこのようなコンセプトを踏襲したのか。

最後まで”謎”を残したまま、二代目・Rancheroはあっという間に市場から姿を消します。

伝説は2度消えました。

このモデルを誰も掘り下げることもないまま、既に半世紀が経とうとしています。

店主もこのような仕事をしていなければ一生出会うことがなかったであろうモデルです。

今後もこのモデルについて、コレクターである当店の目線で深く掘り下げていきたいと考えています。

販売前ですが、検品は完了しており、販売可能です(オーバーホール後のお渡し)。

お問合せお待ちしております。

WhiteKings 店主