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2021/03/05 22:22

White Kings 店主です。



時計のデザインというのは
その時代の世相や技術を大きく反映します。
10年をひと区切りに、
トレンドや傾向があるのは間違いありません。

特に時代が反映されやすいのは『ラグ』。
時計のベルトやブレスレットを支える
”時計の脚”と呼べる部分です。




1950年代後半~1960年代初頭にかけ、
時計のラグは急激に太く堅牢に成長しました。
時計に求められる”頑丈さ”を体現するように、
それまで本体に溶接=ロウ付けされていたラグは
本体ごとステンレス素材を削り出すことで
文字通り時計と”一体”となりました。



1961 OMEGA Seamaster MEISTER Cal.552 Automatic



このSeamaseter。
ドレスウォッチという従来の枠組みでは
類を見ないデザインと言えます。

どこかスポーツウォッチ然とした佇まい。
この時計のディティールから
特定のモデルを想像する方も多いかもしれません。
例えば、あのRancheroです。

1957年にデビューし僅か3年で生産終了した
OMEGA Rancheroは、直線的で力強く、
無骨なラグを有していました。
”ランチェロケース”と呼ばれる、
ドバっとはみ出した独特のラグです。

1960年をもって
その姿も意匠も消えたかに思えましたが、
このモデルにバトンタッチするかのごとく、
ランチェロの面影は引き継がれました。


正面から見たときの、
Cラインケースとも、何とも形容しがたい塊感。
そしてポリゴンデザイン。



1970年代の機能美のような、
あるいは1990年代のスーパーカーのような
マッシヴな印象も持ち合わせます。




側面中央にはエッジがつけてあり、
ここは従来のランチェロケースと違う点です。




このモデルの特徴は
何といっても33.5mmというサイズ感に
似つかわしく無いほど立派でド迫力の極太ラグ。




サイズ以上の迫力と塊感だけでなく、
42.5mmという縦幅は同年代の35mm径の
時計とほぼ同等かそれ以上の長さです。

その横縦比のバランスは、
OEMGAのドレスウォッチの中でも異例中の異例。

とにかく、縦に長い。




ランチェロケースのシルエットを踏襲しながら
鋭く伸びやかなドルフィン針や、
2面に渡るラグの面取りなど、細かい点は
ドレスウォッチとしての美意識が強調されています。




装着感は、かなり硬質。




そのケース径にもかかわらず、
手首周囲は16㎝以上あった方が
しっくりくると思います。




60年代を象徴する豪華な立体レリーフ。
満足感の高い仕様です。





そしてこの”個体”を更に特別たらしめているのが
スイスのジュエラー:MEISTER別注仕様である点。




他のブランドを冠する仕様は
”ダブルネーム”という呼称でも知られます。

今なおマリッジリングなどを手掛ける
老舗ジュエラーであるMEISTER。

1960年代を中心にOMEGAに対し
様々な別注仕様をかけましたが、
どこか一癖あるモデルが多いのは
気のせいでしょうか。


誇らしげなMEISTERの文字と、
別注ならではの縦ヘアライン。



サンレイ・バーストダイヤルとは異なる
金属光沢のような輝きがソリッドで、渋い。




よく見ると、
立体のインデックスはバーインデックスではなく
緩やかにシェイプされたクサビ形だと気が付きます。
更に、夜光塗料はインデックスに彫られた溝の中に
『埋め込まれている』こともわかります。





文字盤のデザインを損なわないノンデイト。
自動巻きの傑作機 Cal.552を搭載し、
信頼性は抜群です。






この個体はOMEGAのスポーツモデルの象徴、
キャタピラブレスを装備。





時計本体より後年製のブレスになるものの、
フラッシュフィットが全くの調整・加工なしに
ぴったりと適合してしまうあたり、
設計思想がスポーツモデルのそれであることを
感じさせます。




このモデルは奇しくも
Rancheroと同じ運命を辿るかのように
3年足らずで廃盤となりました。

60年代の保守的な時代において
前衛的なラグは受け入れられなかったのかもしれません。

しかし後になって考えれば、
1960年代後半にかけて日本のキングセイコー等で
採用された直線的なカットラインは、
その10年近く前に誕生していたことになります。
先見の明、とも言えそうです。

OH済みで、即納可能な1本。
精度は現状日差10秒以内と完璧な状態です。


特別な1本を今回もお届けします。




WhiteKings 店主