重要なお知らせエリアを非表示

2020/11/27 02:40

こんばんは。

WhiteKings 店主です。

『本物を見分けるコツを教えてください』
店主が非常に頻繁に受ける質問です。

これは
『信頼できるお店から本物を買って勉強して下さい』
としか答えられないのが現状です。

意地悪ではなく、それが一番の近道です。
寸分違わぬ本物に触れておけば、
偽物や改造品を目にしたとき
必ず違和感を覚えます。

『風防に透かしがある』とか、
『竜頭にマークが入っている』とか
そういった知識は悪意の前では無意味です。

ヴィンテージウォッチの偽物は
偽物に本物の部品を組み合わせた時計が主流です。
嘘の中に本当を織り交ぜることで
『本物ですよ』と言い訳ができるからです。

つくづくこうはなりたくないものです。



店主はお店をやる以上
自分で仕入れるという道を選んでいますので、
トータルで考えればお店で時計を買う方より
大変な損をしています。

偽物も掴まされましたし、今でも
『やられた』という仕入れはたくさんあります。
一度に数十万以上の失敗は普通です。

しかしそれを『しまったなぁ』
『勉強不足だな』『次は頑張ろう』
で終わらせられる感覚は、
その後をリカバリーできるノウハウを
培うことで初めて成り立ちます。

サラリーマン時代の月給以上の額を
目の前で失っても平気でいられる今の感覚も
問題と言えば問題ですが…。



例えば、オリジナルが欲しければ
その時計に強いお店、誠実なお店で
一度はちゃんとしたものを買うこと。

さらに突っ込んだ話は、それから....
と店主は思います。

-----------------

今回はエイジング特集です。



コラム:【本物の黒】を始め、
『意味あるエイジング』
について度々言及してきました。

エイジングを単なる劣化と捉えていると
中々気づかない部分があります。
それが『なぜそのような経年変化をするのか』
という点です。

例えば、放射状の仕上げが施された
”サンレイ”と呼ばれる文字盤は、
放射状の筋に沿ってエイジングする
ケースが多く見受けられます。



これは文字盤のサンレイの筋に沿って
水分が移動し、いわゆる毛細管現象のように
エイジングが広がるためです。

エイジングによっては、文字盤表面だけなのか、
内部に錆が発生してしまっているのかなど、
時計の状態を簡易的に診断することもできます。


1940’sの時計の多くは
文字盤に直接塗料が塗られているため
ブリキ様の金属光沢を放つ時計が多く存在します。
"下地出し"という製法で文字盤の金属そのものを
削って文字や模様を描いていることもあります。
そのため地の素材の影響を受けやすく、
経年変化も独特です。




また、文字盤のエイジングによっては
それがオリジナルか否か判断する
一つの基準にもなり得ます。



1950’s OMEGA 30mm Caliber Cal.284 White Dial



珍しいマットホワイトです。
様々な要素からオリジナルと判定できます。
元々の仕様は僅かに光沢を帯びていました。

このバリエーションの多さ、OMEGAの時計の
仕様は無限なのか?と錯覚するほどです。


このマットホワイトは、
先のサンレイダイヤルとは明らかに
下地の処理方法が異なります。

この針で突いたような無数のスポット(酸化の跡)は
主に40’sの時計でよく見られるエイジングです。
このモデルではよく見かけます。



つまり、旧来に近い製法で仕上げられています。
塗装が文字盤の地金の影響を受けているのが
よく分かります。

その表情はさながら年季の入った
モルタルのようです。

均一に発現したスポットは余白の多い
ノンネームに適度な表情を与え、
立体感の強調や醸し出すノスタルジックな
空気感にも一役買っています。



”リダン”と呼ばれる文字盤の描き直しの場合
このようにエイジングすることは稀です。
後描きゆえどうしても結着が弱かったり、
塗料の選択が悪く加水分解されたりします。

その多くは剥がれるようにボロボロと朽ち
エイジングというよりは単なる劣化です。



次に、マットブラックダイヤルのエイジング。



1960’s OMEGA Seamaster120 Automatic Fullsize Cal.565



当店が”マリンスノー”と呼ぶエイジング。
マットブラックのダイバーズウォッチに
発現するためこのように呼称しています。

意外にも60’sのマットブラックダイヤルの
エイジングは稀少です。

寧ろ70’sに製造されたミラーダイヤル系の
方が外的要因を受けやすかったようです。
※俗に言うクラック=スパイダー化。
60’s以前のミラーダイヤルと製法が異なります。


一見カビか?と思ってしまいそうな白。
これは表面の単なる汚れではなく、
斜めから見るとマットな塗装部が僅かに隆起し
そこから退色しているのが分かります。



Seamaster120の吹き付け塗装は
ダイバーズとしての用途を考慮した
仕上げだったのか厚く強固な塗装皮膜です。
※別個体を分解時に確認。

それゆえか、多少の水分が付着しても
剥離することなく持ちこたえ、
結果白っぽくなります。

この白は水分に含まれる石灰質やミネラルが
主要因で、時が経つと画像個体のように
文字盤と一体となります。
勿論、擦っても落ちません。

もし仮にリダン品であれば
水気に耐えられず剥がれ落ちたかもしれません。

やはりここにも文字盤の性質が反映されています。

60’以前のミラーダイヤルと比べると
エイジングの派手さには欠けますが、
光を反射しないマットな黒に散らばる白色は
深海に堆積したマリンスノーを彷彿とさせます。

精悍さを失わないダイバーズに相応しい表情です。





当店ディレクタ:中村のSeamaseter120にも
同様のマリンスノーが僅かに見受けられます。


中村の個体は、実際に中村自身が着用し始めてから
誤って水入りしてしまいエイジングが発生しました。
奇しくもこのエイジングの発生プロセスを
スタッフの個体が証明する形となりました。

エイジングが却って”本物”である事実を
引き立てるとは中々面白いものです。


エイジングの要因は様々ながら、
間違いなく”傾向”はあります。

それを読み解くことで
何故こうなったのか?
これからどうなるのか?
が、何となくわかってきます。

単なる汚れや劣化と思っていたものが、
意味あるものとして腑に落ちる瞬間でもあります。


当店はエイジングダイヤルが充実しております。
11/28(土)の名古屋での定期展示では
エイジングダイヤルを中心にご用意いたします。

皆様のお越しをお待ちしております。


WhiteKings