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2020/08/19 03:09

こんばんは。

WhiteKings 店主です。


人の記憶というのは
ときにいい加減で不正確なものです。

思い込みや願望、妄信。
他人の言葉や外部情報。

都合の良い面だけ信じたり、
重要な情報を忘れたり、
いとも簡単に改変されます。

記憶した情報源そのものが
間違っていることもしばしば。


店主の父は結構適当な人で、
幼少期に教わったことに間違いが多く
大人になり何度か赤っ恥をかいたものです。

しかしこれは
『父に教えられたことだから間違いないはず』
とバイアスが働き、
確認もせず信じ込んでいた店主自身の
問題でもあります。

父も伝える情報の正確さを精査せず
息子に教えてしまっていました。


誤った記憶のアウトプットは
間違った情報の伝播(でんぱ)に直結し
他者を混乱させます。

自分の目で見て、確認し直す。

事実の確認は、こうして情報発信を行う
当店にとって最重要課題と考えています。

店主が発信する情報も絶対に正解とは限らないゆえ、
常に『間違った記憶』の恐怖と戦いながら
記憶と事実の擦り合わせを行う毎日です。



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先日、Seamaster Deville (シーマスター デビル)
コラムを掲載しました。


このモデルには、不可解な噂があります。

-Seamaster Devilleは”ボンド・ウォッチ”である-

映画『007』の主人公:ジェームズ・ボンドが
劇中で着用していた。

という噂です。






さらに掘り下げると、
1963年の作品『007 ロシアより愛をこめて』
で主演のショーン・コネリーが着用した。

という内容です。

海外サイトでは
この情報が周知の事実かのように
記載されたサイトがいくつも存在します。


しかしこの情報、出典が一切不明です。


店主とディレクタの中村は
007作品のファンですので、
驚きを以って情報を耳にしましたが
何度か作品を観た我々が一切気づかないとは
一体どういうことなのか?

サブマリーナに次いで、
大変な話題になってもおかしくはありません。



公式な記録では、
OMEGAが初採用されたのは
ピアース・ブロスナン主演の作品
『ゴールデンアイ(1995年)』の
シーマスター300プロフェッショナル
のクォーツです。

それ以前の作品では
何の言及もありません。


この情報を得た後、
店主はもう一度同シリーズを観直しました。
そして恐らくですが、この噂が生まれた経緯を
推察することはできました。



初代ボンド ことショーン・コネリーは、
会食やドレスシーンで度々金色の時計を着用します。

この時計は、
手首に沿ってカーブした時計『カーヴェックス』で
一世を風靡したブランド:Gruen-グリュエン-
のドレスウォッチである説が最も有力です。

サイズ感から、店主もこの説が有力とみています。


劇中では
このグリュエンと思しき時計と
ROLEXサブマリーナ以外を着用する
シーンはありません。


かつてこの金色の時計の正体をめぐり
時計ファンの間で候補に挙がったのが
同時期に販売された『Seamaster Deville』
だったのではないか?

その中で、"OMEGA派"の
『こうであってほしい』という願望
『そうに違いない』という感情が
ボンドウォッチと思い込ませ、
そしてひとり歩きし、
通説のように語られているのではないか?

と 見るのが『今のところ』ベターです。


しかし、劇中で登場する金色の時計は
アラビア数字のインデックスです。

Seamaster Devilleはゴールドの個体はあれど
フェイスはバーインデックス。

比較対象に挙げるには確度が低すぎます。
ヒントとなるような仕様はないのか?


結論として、やはりありました。





1960’s OMEGA Seamaster De ville Automatic Cal.565



恥ずかしながら、このような仕様の存在は
先月の入荷まで全く知りませんでした。

OMEGAの仕様分類が『沼』と呼ばれるのも納得です。



このモデルを手にして
自らのコレクションにするか本気で悩みました。


切り立ったアラビアインデックス





文字の中央に向けて山型にせり上がっています。





ブロックを積み上げたような非常に独特なフォントです。
まず見かけません。相当にレアです。


立体OMEGAロゴとの相性は完璧でしょう。





標準のバーインデックスタイプと。





顔だけ見れば別モデルです。




この風格は
別格だと感じてしまいます。


私がこのモデルを知っていたのなら、
『ボンドウォッチ候補』に推したくなる
気持ちも何となく分かります。


初期の007は比較的低予算の映画とはいえ、
名の知れない時計をドレスシーンに
据えるのは考えづらく、
有名どころで推察合戦になったのは
想像に難くありません。

それにしても、この仕様は
あまりにニッチ過ぎないか…?

あんなに画素の荒い映像で、
ここまで想像力を膨らませた
時計ファンには脱帽です。

多分、その”願望”が実ることはなさそうですが。

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結局、公式なアナウンスがないので
全て推察に過ぎません。

今後何かの折に覆る可能性もあります。

ただ、一度情報を精査することで
今回も新たな発見につながりました。


一先ず店主は
『自分の時計になってほしい』
という願望を、涙を呑んで捨て去ります。

【商品詳細】



WhiteKings 店主