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2020/08/16 00:43

こんばんは。

WhiteKings 店主です。


以前SNSで当店のスタンスについて

『歴史はルーツであって、ルールではない』
『形式を理解した上で、敢えて形式に拘らない』
と言及しました。


スタイルや習慣は、
時代とともに刻一刻と変化します。

例えばスーツのデザインの起源は
カジュアルな部屋着・普段着です。

しかしフォーマルイメージが定着した現代で
『公の場で着るのは歴史的にナンセンスだ!』
と怒る人はいません。

裏を返せば、スーツを普段着に活用しても
歴史的には何ら間違っていません。

※店主はスーツを私服として楽しんでいます。


今の時代は、モノの活用方法に
様々な選択肢が与えられています。

時計のスタイルや格式も同じです。

モノの歴史やルーツを学ぶのは
コトの成り立ちを正しく理解するためであり
反面、その固定概念から離れるためでもある
と店主は考えています。


時代に合わせて様々な派生が生まれ、
時には原点回帰を行い
時には時代に否定され
時には再評価される

”今ある価値観”から、改めて
それらのプロダクトにスポットを
当てたいと当店は考えています。



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OMEGAの歴史において、
1970年代から90年代ほど
”否定”された時期はありません。




流行の変化
日本製腕時計の台頭
企業体力の低下

生み出すプロダクトが
次々と”負の遺産”に絡めて論じられ、
後世で否定的に語られてきました。

様々なムック本やウェブサイトの
論調を見れば、その傾向は明らかです。


確かに
~60年代の一流メーカーのクオリティは
目を見張るものがありました。

70年代
それまでのモノづくりと思想が変わり
合理化・樹脂パーツの使用率が
高まったのも事実です。


ただ、
実際に手にして、”ダメだこれは”
と思った人がどれだけいたのか?


私を含め、
ネット社会では他人の情報を追体験し
知った気・分かった気になりがちです。

有名なサイトに載っていた情報が
誤りであったことは何度もあります
(当然、私の情報が全て正しいとも限りません)


店主は自省を込めて
実際に手にして『どうだったのか』
を意識するようにしています。




1970’s OMEGA Constellation 
Gerald Genta Cal.1011 Chronometer




オメガの高精度を象徴する、旗艦シリーズ。

Cラインケースと呼ばれるモデルの
後期型に位置します。



それまで一般的だった
アクリル製のドーム風防が廃止され
量産可能となったミネラルガラス風防を採用。





直線で構成されたフェイスに、
切り立った『OMEGA』の文字と
インデックス。

時計界の巨匠、
ジェラルドジェンタがデザインした
独特の曲線を描く Cラインケース。



レトロフューチャー
という言葉がぴったりながら
上級機のオーラを漂わせているのは
前期型と変わらず。

薄く、そして軽い。





裏蓋の天文台の意匠は健在。




文句なしに格好良い時計です。



次に、問題のムーブメントです。




ムーブメントは
薄型・ハイビート化し
高精度を追求したクロノメーター機
Cal.1011にチェンジ。


通称1000番台と呼ばれるCalシリーズは
”愛好家”からの評価が芳しくない
ーブメントです。


これまでの頑健で鏡面メッキされた
艶やかなムーブメントとは打って変わり
鋭角で無機質な外観。

一見薄く繊細で、簡素。


"らしくない"
"コストカット"
"耐久性に劣る"
"時流に負けた"
"〇〇(他ブランド)と差がついた"

なかなかの言われようです。



しかし先に結論から述べると、
明らかに過小評価された名作です。


OMEGAは
常に精度と実用性を追い求めてきました。

ConstellationやSpeedmaster等の
エピソードをはじめ、
常に精度にまつわる話題に事欠きません。

この機械の誕生も
徹底して精度と実用のバランスを
追い求めた結果と思います。


精度の"出しやすさ"は折り紙付きで、
クロノメーター規格は伊達ではありません。

また、店主が所有した個体の中で、
致命的な故障を起こした
このムーブメントは
今のところありません。

繊細な作りばかりにフォーカスされ
過剰に"壊れやすい"というイメージが
先行している気がします。


先代と比べれば若干ピーキーな面はあれど、
腕時計を実用たらしめた一つの完成形。

それが、1000番代シリーズ。
というのが店主の総評です。



当店とタッグを組む技術者も
やはり
『単なるコストカット構造ではない』
と明言しています。

では、精度以外はどうか。



コストカットと揶揄される原因に
機械表面の梨地仕上げが
真っ先に挙げられます。





先代のムーブメントの防錆メッキは、
梨地ではなく地厚で美しい鏡面仕上げが
施されていました。




どちらが美しいかと言われたら
先代、と言わざるを得ません。

しかしこの仕様変更が要因で
時計が傷みやすくなったとは
周りの所有者からは聞きません。

店主もかなりの数の1000番台の
ムーブメントをみてきましたが、
特に何も感じません。


それに冷静に見れば、
防錆の赤いBeCu皮膜自体は
しっかり継承されています。

むしろまだまだ、
十分に美しいデザインなのでは
とも思います。


カレンダー早送りは、竜頭を引いて回すだけ。
現代時計のように、スムーズな日送りが可能。





カレンダーパーツのプラスチック化も、
薄型・軽量・小型化・効率化のために
採用されています。


この部品が折れている個体の多くは、
過去に日付の変更禁止時間帯に
日を送ったことが原因のようです。

一部の時計を除き、
夜-早朝の時間帯に日付を送るのは、
今も昔も禁忌です。
日を変える為の部品たちが噛み合って
いるからです。

プラスチックは使い込めば消耗はしますが、
正しく使えばそれほど頻繁に
バキボキと折れるものではありません。


竜頭を引き上げると1日ジャンプするという
先代の何とも古典的な?機構からすれば、
この早送り機構を採用したことによる
利便性は代えがたいものだったでしょう。



薄型と高精度を追求するため、
部品点数は多く ”先代と比べれば”
一つ一つが繊細。

修理担当者は
手間のかかる構造かもしれません。


とはいえ、その完成度を見れば
『安易なコストダウン』
と論じるのはかなり無理がある気がします。


秒針を止めるハック機能
高精度で薄型
スムーズな日送りを実現した機構
あくまで基本に忠実


十分すぎるほどに
『実用可能なヴィンテージウォッチ』
としての機能と水準を満たしている
と言えるのではないでしょうか。


この機械の消耗部品は
今のところ当店の供給に問題はありません。

メンテナンスは安心してお任せください。



通説やバイアスに囚われず
客観的な事実に基づいて判断していくと
否定が肯定に変わる瞬間があります。

百聞は一見に如かず。



ちなみにこの個体、特別な仕様です。
お分かりでしょうか?

正解は商品ページをご覧ください。






当店はこの時計を”肯定”します。

【商品詳細】



WhiteKings