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2020/06/07 06:40

おはようございます。
WhiteKings店主です。

店主は物事を単純明解に表すのをあまり好みません。
一見メッセージ性が強く明快そうな表現は
『わかった気にさせる』リスクがあるからです。

私の知見程度では、
却って表層的な伝わり方になることが多いはずです。

また、上辺だけの高尚な表現をしたり顔で
語りたくないと考えています。

単純明快さというのは、俳句のように
少ない言葉でも人の心に刺さる、
多層的な表現でないといけないと考えています。

当店のコラムでの表現は
『誰でも言える言葉をここで反芻しても意味がない』
と考えています。
それをやると、ただの情報ブログになってしまいます。

ですので、敢えて洗練され切った表現は避け
経験や長っっったらしい主観を残すようにしています。
※店主が勤め人だったころの仕事は、今とは真逆の
『主観を廃し誰にも誤解なく伝わる文章を作る』
ことだったのですが…...。


今回も前置きが長くなりますが、ご了承ください。




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”エイジングとは何か?”
とよく考えることがあります。

非常に主観的で曖昧な、この議題。



例えば、昔からこのような考え方があります。

『ヴィンテージって、要はただの中古のことでしょ』
『エイジングなんて、劣化を都合よく言い換えただけ』

ある意味とてもわかりやすい価値観です。
一つの真理だとも思います。

ただ、誰かに価値を教え込まれた訳でもなく
元々アンティーク品が好きだった店主にとって
あまりしっくりこないのも事実です。

反面、店主は長年潔癖症で、
身につけるものに関しては徹底して
新品を好んできました(今は違います)。
アンティーク品が好きなのに潔癖症。
随分と矛盾した性格ですが、
ゆえにヴィンテージ好きとヴィンテージ嫌い
どちらの気持ちも分かるのです。





店主は、
ヴィンテージの魅力は俳句表現みたいなものだ。
と考えています。

った一句で様々な情景や感情を想像させる奥深さに、
ヴィンテージウォッチとの類似性を感じます。


松尾芭蕉の作品に
『夏草や兵(つわもの)どもが夢のあと』
という句があります。

芭蕉が旅の終着点の城跡(岩手の平泉)で
詠んだとされます。

店主が最も好きな句です。

表向きは
『かつて栄えた者共が今となっては滅び、
そこには草木が生い茂るだけで何も残っていない』
単なる盛者必衰の句とも読めます。

しかしその裏には、
芭蕉の極めて複雑な情緒が表されているように感じます。
命を賭して壮絶に戦い死んでいった者たちへ情念や尊敬。
畏怖、夢を果たせなかった者への無念の想い。
この世の無情さ、憂いや労い、慈しみ。

今となっては穏やかに時が流れ
うっそうと草木が生い茂るひと夏の瞬間に、
彼ら=つわものどもの命の煌めきを確かに感じ
胸を締め付けられ、心を揺り動かされた
芭蕉の想いが見て取れる気がします。

もう何も残っていないようで、
彼らの残した”何か”を確かに感じ取ったから
芭蕉はこの句を詠めたのだと思います。

人生で何度も挫折を味わった店主の心にも響く句です。


『あーあ無駄だったね』『もう見る影もないね』
と諦めたり、軽んじたり、捨てることは簡単です。
ヴィンテージウォッチも同じです。


かつて
『古くて使えない』『価値がない』
と表面的に切って捨てられてきたモノ。
人知れず滅んでいくはずだったモノに目を向け、
新たな命や価値を吹き込み次の所有者に感動を
届けるのが我々の仕事だと考えています。

4㎝足らずの時計から得も言われぬ深みを感じ取り、
美だったり格好良さだったり温もりだったり、
胸を締め付けられるような儚さだったり、
過去の持ち主を想像したり、
よくわからないが、多層的な感情を抱く。

そんな抽象的で主観的な感動を得た瞬間
ただの汚れが、”エイジング”になるのだと思います。

滅びゆくものから意味を感じ取っている、
というべきでしょうか。


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今回は店主が最も”滅びの美学”を感じる仕様
ミラーダイヤルのご紹介です。


1950’s OMEGA Seamaster Automatic Cal.501 Black mirror Dial Gold filled case




当店では珍しく、ゴールドカラーのケースです。
スタッフたっての希望で入荷しました。

ROLEXと比較され、
『永遠の二番手』などと揶揄されるOMEGAですが、
名実ともに天下を取った時代がありました。
まさに”夢の跡”の傑作機です。

金色で描かれた書体:ゴールドレター。





本物のゴールドレターは、
たとえ文字盤が退色しても輝きが残っていることが
多いといわれています。

この個体もまさにそう。

文字盤表面がクリア層によって保護されていること。
製法上、文字が下地に強固に結着していること。
塗料自体に金の成分が混ぜられ劣化しにくいこと
など、様々な要因が挙げられますが
実ははっきりとした理由は分かっていません。

ただ、半世紀以上経った今も輝き続ける姿は
紛れもない現実です。


店主が一番好きなインデックス
 ”飛びアラビア数字”。





キレの良いブロック体のようなフォントです。

装飾=インデックスと、
アラビア数字が交互に並ぶ仕様を
”飛びアラビア”といいます。
ROLEXのExplorer1(エクワン)を想像する人も
多いかもしれません。

ちなみにこのデザイン、
1948年のデビューモデルから一貫して存在しています。
※参考までにExplorer1のデビューは1953年です。


初期の”無印”のウォータープルーフケース。



Water proofの文字はありますが、
あの伝説上の生き物”シーホース”の刻印がありません。
しかし間違いなくSeamaster用の裏蓋です。

あの有名なシーホースのデビューは実は1957年から。
年代によって刻印があるもの・ないものが混在します。

この裏蓋は、
スクリューバック(ねじ込み式)でないにも関わらず
当時高い防水性を誇っていました。
裏蓋を開ける際は、かなり力が要ります。



艶が消えかかった、ミラーダイヤル。



先日ご紹介した個体とはまた違う、
艶感の薄れたミラーダイヤルです。

前述のクリア層が徐々に剥離し、
塗装面が露出し始めています。

このような表情の差が、ヴィンテージウォッチは
唯一無二の『個』であると気づかせてくれます。


金張りケース特有の、少しやれた体つき。
金無垢の永遠の輝きとはまた違う、滅びの美を感じます。



地金が真鍮製の時計にみられる腐食痕は見受けられません。
このモデルは、地金がステンレス製であるためです。
”まだまだ現役”という時計の意思を感じます。




当店らしさとは何か?
エイジングとは何か?
そう考えた時、
こういった時計を取り扱い続けるのが
当店としての一つの答えと言えます。


今後も、
当店の哲学に基づいた時計を取り扱ってまいります。

【商品ページ】



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