2020/04/13 23:24
こんばんは。
WhiteKings店主です。
非常に高い人気を誇るブラックダイヤル=黒文字盤。
黒く鋭く精悍な顔つきは、いつの時代も時計好きの心を掴んで離さないものです。
度々ご紹介の通り、ブラックダイヤルはもともと軍用品=ミリタリーウォッチのために採用されました。
暗所での夜光塗料の視認性向上、また文字盤が反射することを防ぐ等、戦場での実用性を重視して進化しました。
戦後においても、ブラックダイヤルはプロフェッショナルに向けた”特別”な意味合いを強く残しました。
多くのヴィンテージのブラックダイヤルには、お約束のように夜光塗料が塗布されていることからもそれが垣間見えます。
以前【時代のはざま】 というコラムを書きましたが、ブラックダイヤルにも時代の移り変わりがありました。
具体的には、50年代から60年代にかけて塗装の仕上げ方に明確な差異が見て取れます。
50年代は”ミラーダイヤル”と表現されるグロス様の仕上げが主流で、反射を抑えたマットブラック仕上げは軍用品に限られました。
ただこのミラーダイヤル、経年の影響が出やすいことが弱点でした。
今日ではこの独特の経年=エイジングが非常に評価されますが、当時は実用品のブラックダイヤルの経年は劣化以外の何モノでもなかったのでしょう。修復された個体が多く、オリジナル品は少ないのです。
60年代、塗装技術の進歩に伴い市販品は経年を生じやすいミラーダイヤルからマットブラックダイヤルへ移行し始めます。
※同時期にSeamasterの書体も変化しますが、これに関しては改めて特集を組みます。
そして時代に呼応するように変化を遂げたモデルが続々と登場します。
1960’s OMEGA Seamaster COSMIC Black Technical Dial Cal.601

ブラックの顔立ちに、シンメトリーなノンデイト。
オリジナルコンディションが保たれた、ぐらっとくる魅惑の1本。
とにかくリダン(描き替え)品が多いブラックダイヤルの中、オリジナルダイヤルはいつ見ても眼福なものです。
より高い塗装技術で表現されたマットブラックダイヤルも、やはり実用目的。
紫外線で色褪せたり経年が見られれば問答無用で手が加えられました。
この個体のダイヤルはΩマーク周辺の経年の兆候以外傷らしい傷が見当たりません。

この個体、COSMICの中では異端といえる存在感を放ちます。
ダイヤル外周には1/5秒を読み取る為のマーカーがぐるりと刻まれています。
主に軍用品に採用される意匠です。

この個体の特殊性は、ハンド=針からも感じられます。
この白く塗られた針。
いわゆるホワイトハンドは、明らかに視認性向上のために採用されています。

シルバーハンドが主流の市販品で、このホワイトハンドは非常に目を引きます。
そして、余計な植字装飾が省かれたフラットなダイヤル。
(立体装飾は衝撃によって脱落することがあるため、プロフェッショナルモデルではあまり採用されません)。

3.6.9.12時位置にのみに存在する立体インデックスは同年代のSeamaster120と良く似た意匠です。

ドレスウォッチ”以外”の使い方をするという、明確な意図をもってデザインされています。
丸みを帯びたΩマークは、60年代後半から徐々に浸透し始めた新たな”Ω”の意匠。

また、この個体は画像の通りインデックスは白塗りでトリチウム夜光は塗布されておらず、かわりにインデックス外周にトリチウムドットマーカーがちりばめられています。
ムーブメントはそのストイックさで誉れ高き手巻き式 Cal.601。

採用されるべくして、といったところなのでしょうか。
その佇まいは、他のドレスラインと同じペットネームを持つとは思えない、端的で意志の強いツール感を纏っています。

少なくとも日本で販売された記録を当店は見つけることができませんでした。
その個体数の少なさからも、おそらくはかなり生産数が少なく、仕様国もある程度限定されていたのではないでしょうか。
今回の個体は、9連のジュビリーブレスレットを装着しています。

しっとりと手に吸い付くように馴染むブレスレットは、腕元に収まる”相棒”としてのキャラクターを引き立てます。

OMEGAの面白さは、一般的なペットネームのモデルに唐突にプロフェッショナル仕様を投入してくる点にもあります。
唐突な変化球は、新たな発見と高揚感を与えてくれます。
ぜひこの特殊な仕様を着けこなして頂きたく、当店は期待を込めてこの個体を送り出します。
WhiteKings 店主