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2020/04/05 06:26

おはようございます。
WhiteKings 店主です。

”代表(店主)が高額時計を買う時の財テク・節約テクニックはありますか”とよく聞かれます。

物欲にまみれたプロダクトオタクなので節約も何もないのですが、しいて言えばお酒やタバコといった嗜好品は基本口にしないことでしょうか。

店主もかつては愛飲・愛煙していた口ですので、支出の差は現実味をもって感じます。

※昨年の11月29日(言いにくいことをいう日)、当店が撮影小物に使っていたブランデーの中身が醤油とバレたのは記憶に新しいですが...



今回は店主を酩酊させる? 時計の魅力である、青焼き針を備えた時計について取り上げます。


1950’s BULOVA U.S.1917-H


青焼き針とは、スチールを高温で焼き、青い皮膜を形成させた針のことです。
ブルースティールなどとも呼ばれます。

美しい見た目だけでなく耐蝕性があり、100年以上前の時計の針が錆びずに青い輝きを放ち続けるのも、この酸化被膜の特性ゆえです。

古い年代の青焼き針の色味は非常に深く、ダークブルーという表現がふさわしい、底光りするような輝きを放ちます。
室内だけで鑑賞していると、色の濃さで青焼き針と気づかないこともあるほどです。


この時計について話を戻します。

BULOVA(ブローバ)社は、何度もご紹介の通り、当時のアメリカが誇る計器&時計製造メーカーの名門。
アポロ11号に搭載された計器は当社のものです。


コブラ針と呼ばれる膨らんだ針と、秒を指し示すスモールセコンド針のロリポップ(丸形)部分にはラジウム製の夜光塗料が塗られ、青焼き針とのコントラストを一層際立たせています。


この1917-Hは、その見た目と名の通り米軍向けの軍用時計=ミリタリーウォッチです。
官給品として軍に収めていたものです。


この時計について残っている資料はほとんどありません。

当店での取り扱いが多いMIL-SPECモデルのような軍の調達規格に沿ったヒストリーもなく、研究が進んでいません。

当店としてわかることは、このモデルが第二次世界大戦以降に生産されたこと、そして朝鮮戦争の時代に投入されたという2点です。

不確定な情報として、当時の海軍・海兵隊員に支給されたともいわれ、多くのコレクターはこれを主張しています。

ディティールからわかることは、一定の階級以上の士官向けの支給品であること。
当時は白文字盤の方が製造コストが高く、また全線で活躍する歩兵は実用重視の黒い文字盤を支給されていたためです。

デザインは、第二次世界大戦時に同国の陸軍武器科に支給されていたORD.DEPTというモデルに非常によく似ています。

ORD.DEPTはかの有名なETA社の機械(ムーブメント)を改修したCal.10AKを搭載していました。
ベース機の性能もさることながら、洗練した改修が施され、製造期間の長いムーブメントでした。

対してこの1917-Hは、1949年から製造が開始されたCal.10BM。


10BMはより独自性を帯びており、もはやブローバの哲学が根付いています。
耐震装置がついていないやや前時代的な構造とはいえ、非常に良い精度が出る名機です。

10AKや10BMを搭載した時計は店主が何本も所有してきましたが、どれもビシッと精度が出る気持ちの良い時計ばかりでした。


官給品クラスお馴染みの、ムーブメントを保護する軟鉄製インナーケースも健在。



経験上、このインナーケースの耐磁性(磁力への耐性)はあまり期待できません。
現代でムーブメントに影響が出るほどの磁力を受けると、このインナーケース自体が磁気を帯びてしまいます。
どちらかというと、当時も防塵の意味合いのほうが強かったかもしれません。


ORD.DEPTはその名の通り陸軍武器科に支給されていたものの、後発モデルである1917-Hが同科に支給された事実は確認できません。


パイロットが操作するための大型の竜頭を備えていることから、おそらくは厚手のグローブが必須な部隊での使用を想定していたと思われます。


バキッと硬質なヘアラインが入ったステンレス無垢のケースは、見るからに頑丈な印象を与えます。


32mmという小ぶりなサイズは、腕のおさまりが非常に良い。






戦争という陰鬱なイメージとは無縁な、からっと明るい表情。

ドレスウォッチ畑で育った店主は、どことなく上品さを持ったこのモデルにとても魅力を感じます。
もともとは私物にする予定でした。

4月は軒並み中止となってしまいましたが、トランクショーに向け整備を進めておりました。
無事オーバーホールが完了し、過去の経験にもれず非常によく精度が出ています。

なお、耐震装置は備えていないモデルなので、落下や強い衝撃にはご注意ください。
強い衝撃は天真(時計の心臓部を支える芯) が折れてしまう原因です。

ミリタリーウォッチ=黒文字盤というセオリーから少し外れた、美しい時計。

ぜひ腕元で輝かせてください。

関連リンク:ミリタリーウォッチ




WhiteKings 店主