2020/02/02 09:04
おはようございます。
WhiteKings(ホワイトキングス)店主です。
OMEGAのヴィンテージウォッチには、通称”Technical”と呼ばれる仕様の文字盤=ダイヤルが存在します。
当店はこの仕様に並々ならぬ思い入れと敬意をもって取り扱っております。
Technicalダイヤルが採用されたのはごく少数のSeamasterです。
1960’s OMEGA Seamaster600 Black Technical Cal.601
このシーマスター600は、通常はオーソドックスなドレスウォッチのホワイトダイヤルを有しています。
しかしこの個体は、非常に癖の強いデザインのブラックダイヤル。
明らかにドレスウォッチとは存在を異にします。
Technicalを日本語訳すると『専門的・技巧的』といった意味となります。
このダイヤルがファッション的なデザインではなく、真に専門職種に向けたものであることは、ディティールを読み解くことで明らかとなります。
このダイヤルの存在を認識し、正しい真贋の目を以って接するのは、ごく少数のOMEGAフリークのみです。
ちなみに、過去コラムでお伝えしてきた通りヴィンテージウォッチのブラックダイヤルはリダン(描き替え)・創作物・贋作が多く、OMEGAに限っても、その比率は9割近いと言っても過言ではありません。
その文字盤が果たして本当に存在していたのか、後年に元デザインに似せて作られた修復品や創作物なのか、はたまた真っ赤な偽物なのか、厳しい真贋の目を持って接する必要があります。
一定の専門知識を有していないと、当時の本物のダイヤルだと判別できないのが実情です。
このTechnicalダイヤルは、一見するとあまりにも怪しげで奇妙なディティールです。
マットに仕上げられたダイヤルに、これでもかと細かく刻まれたミニッツ/セコンドマーカー、ベタベタに塗られた夜光塗料に、極めつけは『赤く』塗られたΩマークとクロスライン。
マットブラックのダイヤルに妖しく浮かぶ赤いクロスラインとΩマーク。
明らかに異質です。
このダイヤルを見て
「赤いペイントのヴィンテージウォッチなんてあり得ない!」 と、贋作の烙印を押すのはある意味当然かもしれません。
しかし、確かにTechnicalダイヤルは”本物の仕様”として存在しました。
OMEGAがなぜ赤いペイントを採用したのかは不明です。
強いて予想できる理由は、視認性と通常モデルとの差別化でしょうか。赤という色は専門性や特殊性を示す色でもありました。
カラーリングでドレスモデルと差別化しているという見方もできます。
黒い文字盤は軍用時計が発祥です。
この個体の黒い文字盤とTechnicalマーカー、厚塗りされたトリチウムのインデックスは、暗所や緊急時に素早く時刻を読み取るために他なりません。
武骨で異質なダイヤルは、立体植字といった装飾が一切ない、ペイントのみで表現されたストイックな仕様。ここからも、ドレスウォッチでないことは明白です。
カタログや年譜から逆算すると、Technicalダイヤルをいち早く備えたモデルはこのSeamaster600であったと推察されます。
当時素晴らしい精度と信頼性を誇ったムーブメント:Cal.600系を搭載した当モデルにこのダイヤルを採用したのも、やはり”テクニカルな事情”を感じさせます。
ツール(道具)然とした無駄のない時計というのは独特の魅力を備えるものです。
当店がこのTechnicalたちに魅せられるのも、ツールとしての役割に徹した本物の佇まいに他なりません。
腕元を引き締めるブラックダイヤルは、やはり”本物”で飾りたいものです。
この個体は、暗所で保管されてきたゆえ当時の夜光塗料が生きています。
流石に放射性物質のトリチウムの寿命は尽きており、連続的な自家発光は見込めませんが、二次発光蓄光塗料の輝きがぼんやりと見て取れます。
当店でもこの時計を仕入れられるのは運とタイミング次第です。
このモデルに限らず、最近はおかしなパーツを組み合わせた個体が多く出回っています。
購入者が納得の上なら良いですが、無知に付け込んだ怪しげな時計が多いのが黒文字盤です。
あくまで店主の経験上ながら、おかしなパーツがついている時計は、他の修復部分もおかしいことが多いです。
慎重な判断と十分な経験が入手には必要。
”専門的”なモデルと言えるでしょう。
【商品】
https://whitekings.theshop.jp/categories/2024338
WhiteKings 店主